中房温泉→燕山荘→燕岳の山行を経て、日本一の山小屋こと燕山荘に泊まって迎えた朝。
線状降水帯が去り、台風一過に相当する晴れ確の朝を迎えた…。
↓初日編
山ヤの朝は早い
2023.6.4 時はAM4時。
周囲の人々の動き出す音で目を覚まします。5時起きくらいで朝焼けを見ようと思っていたのでまだもう一眠りと思ったら窓の外の水平線はすでにトワイライト。慌てて服を着てカメラを持ち外へ飛び出しました。
落ち着いてあたりを見回すと幸いご来光はまだのようで一安心します。ギリギリセーフな神タイミングで、山で熟睡できないタイプであることを幸運に思いました。小屋泊でもテント泊でも3-4時に一回目が覚めるタチです。
昨夜は孤独な星景撮影会でしたがご来光となるとギャラリーがたくさん。皆を起こせば良かったかとも思いましたが、ご来光直前はその往復のわずかな時間が命取りになってしまうので断念しました。あとは今日の行程も長く睡眠を重視したい人もいると思うので、何を取るかは人それぞれで友人とはいえ干渉しないことも大切です。
私は朝焼けが何よりも美しい瞬間だと思っています。しかもそれを山の上から眺められる機会は長い人生とはいえそう多いわけではありません。私は多少睡眠を犠牲にしてでもこの瞬間が拝めるならそれでいいと思っています。
南には八ヶ岳と富士山と南アルプスの一部。
水平線が赤く燃え始めると、いよいよご来光直前。
この燃えるような色が見られるのは時間にすると数分もないくらい。それくらい刻一刻と、世界が始まっていきます。
御来光
AM4:30 御来光。
水平線から陽が昇る瞬間。言葉で言い表せない胸の内。ただ美しいというだけではなくて身体の内側から湧き上がるような何かを感じます。昼間に行動して暗くなったら眠るいち生物として、太陽の存在が命と繋がっていることを実感します。古から人々が御来光に思いを馳せ願いを込めてきたことを理解した、そんな思いでした。
世界が始まる色。
現実とは思えない景色。空の色があまりにも現実離れしていました。
槍ヶ岳のモルゲンロート。陽の色から青空までのグラデーションが最高だ…。
表銀座縦走路で大天井岳へ
AM5時半に皆で朝食を用意し始めて6時半に出発。2日目は大天井岳を目指します。
大天井岳は写真左のピークでここから見ると近く感じられます。感じるだけ。燕山荘から続く稜線歩きは右手に槍ヶ岳や北アルプス深部、立山方面までを一望する、表銀座縦走路の中でも特に超絶景のルートです。
左手には富士山や八ヶ岳、安曇野市街地を望む。どこを見ても絶景。
今日はもう稜線だけだから楽勝でしょ
んだんだ
・・・
立山方面
立山方面を見る。右側の雪山はおそらく剱岳です。おそらく。
極上の稜線歩き。
富士山と南アルプス
大天井岳
燕山荘から大天井岳方面を見るとそんなに遠くないように感じがち。さらに写真で見るとなおさら近く見えてしまいますが距離だけ見ても往復で15kmほどあるので全然普通に果てしないです。正直歩けど歩けど一向に近づかない感じです。
思ってたんと違う
まだ核心部は先だよ
(かえりてえ)
しかし常に槍ヶ岳が視界に居るのはとても贅沢をしている気分になります。
point of no return
大天井岳の手前には100m以上降下する鞍部があって、その手前のピークで一旦集合します。
7人という大人数パーティになるとどうしても体力や岩場の慣れ具合に差があってなかなかペースが上がりません。ここまででコースタイムの1.5倍かかっていて、目標時刻より遅れが出始めていました。ここより先に進むと高度を一気に下げての登り返しが出てきて、さらに大天井岳直下の直登も待っているため引き返すなら今。まさにpoint of no return.
ここから先は行ける人、行きたい人だけで(ry
うちは行くよ
下山後の温泉、食事、帰宅の時間を考慮してここでパーティを二分します。ここから先は師匠、私、HG氏そして女性陣からは唯一Y嬢。迷う素振りもないのはさすがです。
少数精鋭になったことで多少はペースが上がったものの、遠い、遠すぎるぜ大天井。
残り3.5km 中房温泉スタートなら序盤も序盤の距離じゃ…
雪渓が残る登山道
そして大天井岳に近づくにつれ遂に雪渓が現れます。
アイゼンがなくとも通過可能ではあったものの、雪渓の上を歩くには上り下りする場所がないし、雪渓を避けるには地面が露出していないし、ということで思わぬルートファインディングが求めます。
どうすればいいの?ねぇどうすればいいの?(錯乱)
足跡に合わせてゆっくり下りて
大丈夫、落ちてもここなら(多分)死なない
ラッセルのような要領で、足場を作りながら下ったり登ったり。先行者が足跡を付けてくれていたのがありがたい…と思いきや、みんな思い思いの「ぼくがかんがえた最強ルート」を作っていたようでどの足跡が正しいのか見極める必要がありました。
ここが例の鞍部。危険箇所らしい危険箇所はないものの、ちゃんと体力を削ってきます。
また忘れた頃に雪渓エリアです。序盤に比べると斜面の木々が少なく滑ったら止まれなそうな雰囲気です。
ここも大丈夫だよね?死なない?
・・・
まあ…
行ける行けるw
おい
アップダウンが一旦落ち着いて、束の間の水平歩き。心なしか大天井岳が近づいたような気もしますが願望なのか事実なのかもはや分かりません。
振り返ると遥か遠くの燕岳と燕山荘。だいぶ来たなという実感<<<帰りもこれを歩くのかという絶望。
頂上直下250mアップ
いよいよ大天井岳が目の前に迫る頃、最後の直登を目の当たりにします。まさかの250mアップ。
雷鳥に遭遇
そんな中視界の端から「グエッグエッ」という潰れたカエルのような、しゃがれた鴨のような鳴き声が聴こえた。アルプスのアイドル、雷鳥である。この子は冬仕様の真っ白から夏仕様へのグラデーション期。
焼き鳥食いてー
分かるぅぅ雷鳥ってうめえんかな??
…(引)
いよいよ鎖場まで出てきました。これを降りると頂上直下の最下部に到達します。
山頂が見えなくなりました残り250mアップの直登。大キレット側からの北穂高岳への最後の登りに雰囲気が似ています。絶望。難易度とかじゃなくとにかく体力体力。
「喜作レリーフ」
喜作って誰
喜作新道っていう槍ヶ岳までのルートを作った人だね
喜作すげえじゃん
小林喜作氏は表銀座縦走路の喜作新道を作った人です。喜作新道ができる前は槍ヶ岳に行くためには大天井岳から常念岳を経て3日以上かかっていたのが、喜作新道のおかげで1,2日で槍ヶ岳にたどり着けるようになった…らしいです。
常念岳と槍ヶ岳方面の分岐が出てきました。ここが例の喜作新道と常念岳方面の縦走路との分岐路になっていて、表銀座縦走路のちょうど中間地点に相当します。
通常大天井岳へは大天荘小屋を経て回り込むようにして登りますが、雪が残る時期では右側の直登ルートを使うことになるのでストレートに大天井岳山頂にたどり着きます。
私は行動食が早々に尽きて、この辺から異様な息切れが起きるようになりました。(後述)
ついに大天井岳山頂へ
5歩進んでぜえぜえと足を止め、次は4歩でぜえぜえと、息も絶え絶えになりながらもスタートから約3時間、ようやっと大天井岳山頂に到達しました。
正直展望は燕山荘とあんまり変わらんだろうと思っていたけど土下座します。今まで見えなかった穂高〜涸沢、上高地の大パノラマがぼくたちをまっていた。
振り返ると松本盆地、奥には浅間山や四阿山まで見えています。
閉ざされた大天荘
エネルギー補給&トイレ休憩をすべく山頂にザックをデポして大天荘を目指します。これが我々が犯した最大のミスでした。
補給しないと死ぬ
うちもお腹空いてきた
(嫌な予感がする)
大天荘は営業していませんでしたwww
2023年は大天井小屋の営業開始日は6/17からでした。まだまだ厳冬期仕様で小屋の入り口は木の板と釘で閉ざされていました。同じ燕山荘グループだからやっていると完全に思い込んでいました。
もう一度山頂に戻り、仲間の行動食を恵んでもらってなんとか帰れそうな気がしてきました。今回ばかりはソロだったら救助案件だったかもしれないくらい完全にエネルギー切れでした。
糖質が切れるホントに急にめちゃくちゃ息が切れるようになるよ
脂質は酸素をより多く使うって実感できるよ
完全にそれです本当にありがとうございました(死)
涸沢カール
せっかくなのでズームで。前穂高岳と涸沢カール。カール中央には赤い屋根の涸沢ヒュッテが写っていますがこれは肉眼でも十分見えます。
奥穂高岳、北穂高岳、ジャンダルム
続いて奥穂高岳&北穂高岳。間の一層奥の岩はそう、ジャンダルムです。1年ぶりの再会だね。
槍ヶ岳
今回一番視界に収めた時間が長い山は槍ヶ岳です。氷河が四方を抉るように削っていったためにできたという遠目も一発で分かるこのフォルム。実はまだ未登頂だったりします。
そろそろ槍ヶ岳も登頂しないとな
初登頂は来年の北鎌尾根まで取っといて
おん?
「あとは帰るだけだ!」
アップダウンはあるとはいえ、さすがに大天井岳から燕山荘に向かう方がだいぶ楽でした。両者200mほど差があるし。
この帰り際に見た燕岳の山容が忘れられません。あまりにも白い。白だけじゃなくて緑を纏っていて上品です。帰路は往路よりさらに雪渓で迷いながらも3時間強で燕山荘に戻ってきた。
ハイクオリティ過ぎる燕山荘のカツカレー
昼食休憩ができたのが本当にありがたい。カツカレー1500円。山小屋ならどんなカレーでも美味いとは思いますが、このカツカレーはまさかのカツが二度揚げで、揚げたての状態で出てきました。意味不明(褒め)。ルーもよくあるインスタントな感じではなくちゃんと煮込んでいる味でした。意味不明(褒め)。
燕型のチーズが乗っている遊び心とか本当に山小屋で出てくるクオリティではないと思います。
他のメンバーはビーフシチューセットを頼んでいて、こちらも赤ワインが使用されている本格派な味だったそうです(師匠談)。
こちらは燕山荘名物のケーキセット1000円。とにかく糖分を欲していたのでありがたい限り。ケーキももちろんちゃんと美味しい。ショートケーキとモカケーキが選べて、コーヒーのコップのスタンプは1つずつ違うのだとか。そこまで堪能する余裕はもはやありませんでしたが、山小屋目当てで来る人ももてなそうとしているんだなあと感心しました。さすが日本一は伊達じゃなかった。
稜線にいる間は爆風に吹きざらしになって激しく体力を消耗しましたが、燕山荘から下り始めるとピタリと収まり、一気に夏の気温になりました。わずかな距離と標高しか違わないのに、燕山荘より上と下ではまったく気候が違っていて面白い。
ちょっと標高下げるだけで全然気候が違うでしょ
この経験はぜひ覚えておいてね
燕山荘から中房温泉へは全く登りのない下り一辺倒なので、黒戸尾根仕込みのトレラン下山を発揮し2時間半で下山しました。全員揃ったのが16時過ぎで、中房温泉は営業時間的に厳しかったので下界に降りて地元の温泉「しゃくなげの湯」を利用しました。
今回の知見。
・燕山荘は山小屋目当てで行く価値あり。あの極上の自炊場、歴史ある空間、ホテルと見紛うクオリティは体験すべし。
・大天井岳は頑張って登る価値あり。百名山でもないし縦走路の途中のピークということで、この辺りの山々の中ではちょっと地味な印象だけど、眺望は超一級。
・行動食は余るくらいでちょうど良い。体力自慢芸人でもエネルギーがなければ無能です。
燕山荘と大天井岳はいいぞ。おしまい。