先日のブレーキ取り付けにて、ブレーキホースをシフターに接続する際にトラブルがあり、ネットの情報を調べ尽くして購入店に問い合わせまでして正しい情報が得られたのでまとめておきます。
一般化してきたディスクロードですが、それでも自分で組んだ人間以外には全く分からない話です。でも我ながらSRAM etap AXSを自分で組む人間からするとめちゃくちゃ大事な情報だと思います。油圧ディスクブレーキのブレーキホースを接続する際に使用する、オリーブインサートとオリーブの話です。
結論はShimanoであれSRAMであれオリーブとインサートは再利用不可です。※ただし(記事参照)
油圧ブレーキの仕組み
まず、前提知識です。油圧ディスクブレーキはブレーキホース内部にオイルが満たされていて(正確にはフルードという表現が正しい)、「密閉容器の中では容器の形状によらず、流体の1点に加わった力が減衰することなく全ての点に伝わる」というパスカルの原理によってブレーキ機構が作動します。
油圧ディスクブレーキの構造についてはこちらの記事が非常に分かりやすかったので紹介。
油圧ディスクブレーキはその構造上、シフターからブレーキホース、ブレーキパッドまでのフルードが満たされる空間が完全に密閉されている必要があり、密閉されていなければ正しく作動しなくなります。そして防水を謳うバッグや衣類も縫い目が弱点になるのと同様に、フルード漏れが起こるのはホースの接続部が多いです。
そこでブレーキホースとシフターを接続する際、密閉状態を形成するのに使用するのがオリーブインサートとオリーブです。(メーカーにより多少異なるようですが、SRAM etap AXSでは前後ともブレーキホースとシフターの接続に使用します)
オリーブインサート
オリーブインサートはカットしたホースの先端に挿入するこのネジのようなもので
オリーブ
オリーブはこの赤い金属パーツで、オリーブインサートを挿入したホース断端に接続します。
オリーブの役割
オリーブの役割は先述のようにホースとシフターの接続・密閉性の確保であり、圧縮ナットで締め込むことでオリーブが変形して密着する構造になっているので、基本的にオリーブの再利用はできないことになっています。Shimanoのマニュアルにそのように記載がありますし、ちょっと調べればチェーンピンやクイックリンク同様、再利用してはいけないと啓蒙する記事がたくさん出てきます。
実際、Shimanoのオリーブは一度使用すると誰が見ても分かるくらい圧縮され変形します。下記記事で写真が紹介されていたので参考にさせていただきました。
↓先日SRAM etap AXSのブレーキの取り付けを行った際の話です。
ブレーキホース接続時の疑問
もともとブレーキホースとシフター、キャリパーは全て接続された状態で梱包されており、自分でシフターからホースを外し、ホースカット、オリーブ等装着して再接続、という作業が必要なのですが、最初にホースを外した時のナットのトルクに比べ、再接続で締め込むときは圧倒的に固かった上に、圧縮ナットのネジ山が露出した状態までしか締め込めなかったのがことの発端。
ネジを斜めに入れ、無理やり締め込んでしまったのではないかと不安に思い、一度緩めてもう一度接続したのですが、ブレーキは命に関わる部分なのできちんと調べることにしました。そしてオリーブの役割を知った上で、以下の疑問を検証しました。
これらに関してはネット上で調べられる範囲で調べた上で、私のSRAM FORCE etap AXS HRD 2X groupsetを購入した「ロードバイクショップ コグス」さんへ問い合わせを行った結果です。
①ホースとシフターの接続について。外す時に比べて硬いのはオリーブを変形させる力が必要だからではないか。また、圧縮ナットのネジ山は見えなくなるのが正しいのか。
ディスクブレーキの組み込みのブログを見漁った限り、やはり「外す時の感覚に比べて心配になるくらい固い」というような記載が散見されました。仮にもオリーブという金属パーツを変形させるトルクをかけるので、固くなるのは納得できます。
そしてネジ山問題。コグスさんによれば「圧縮ナットを締め込みましてもネジ山は見えた状態になります。おそらく緩んだ状態で締め切ってしまわないようにかなりの余裕を持たせているものと思われます」とのことで、やはり締め切ったところでネジ山が見えている状態で問題はないようです(もっとも、ネジ山がなくなるまで締め込むのは力の問題で非常に難しいと思いますが)。
②一度ホースの接続を緩めたらオリーブインサートとオリーブは新品に交換しなければならないのではないか
今回の記事を書く理由になったオリーブの取り扱いに関する話です。先述のようにオリーブは変形することで役割を果たすので、結論としてはShimanoであれSRAMであれ、公式にはオリーブの再利用はできない。ただし、SRAMの場合、推奨はされないが実際のところは使えてしまうようです。
コグスさんの回答は「シマノは完全に使えませんが、SRAMでもオリーブとインサートの再利用は推奨されておりません。当店では必ず念のため新しい物に交換いたしますが、実際のところは使えてしまいますため、何度か使いまわしているユーザー様もいらっしゃいますが、あくまで推奨はされておりません。圧縮ナットの再利用は問題ありません」とのこと。
オリーブの再利用はできない
つまり、私のように頑張って締め込んだあとに何らかの理由で一度外して再度接続した場合、オリーブはすでに変形しており正しく接続できない恐れがあります。一度締め付けて緩めただけでもオリーブの再利用に当たるということです。コンポセットに付属のオリーブインサート、オリーブはそれぞれ2つずつで予備は無いので、ここをやらかすと新品のオリーブインサートとオリーブを手に入れない限り先に進めないことになります。
恐ろしいことに、挽回不能なミスの割にはマニュアルにはオリーブの再利用ができないことや、接続は一回きりの失敗が許されない作業であるような注意の記載は一切ありません。
もちろん、コンポの組み込みを行うプロの方々からすれば常識でありわざわざ書かれていないのかもしれません。実際マニュアルにもプロショップの熟練したメカニックに組んでもらうようにと書かれています。しかしこれまで見てきた印象としてはSRAMのマニュアルはかなり丁寧で、注意点についてはわざわざ書いてくれるんだ、というレベルのものが割と記載されているので、ここはもう少し注意書きをして欲しかったと思います。
公式にはオリーブの再利用はできませんということなので、再利用するなら自己責任という話になってくるのですが、調べてみるとこれは思ったよりも興味深い話でした。
オリーブの「再利用」の定義
①オリーブの扱いはShimanoとSRAMで違うかもしれない問題
①今やSRAMもかなり詳細な情報がネットで得られるようになりましたが、ここまで細かい話になってくるとさすがに情報がありません。ただしShimanoとSRAMのオリーブはパッと見でも明らかに形状が異なるのと、使用した後の形状変化に大きな差があります。Shimanoは明らかに潰れて変形しているのに対して、SRAMの方では見た目上は変形していないように見えます。
(写真①)接続前の、新品状態のオリーブ
シフターに接続して一度外した時のオリーブ(写真②)
オリーブのおしりの方と圧縮ナットが一体化しこれ以上外せなくなっていましたが、少なくとも私の目ではオリーブの露出している部分には、変形や金属と擦れた傷などは確認できませんでした。すると原理的にはShimanoでは再利用不可のオリーブはSRAMでは実際のところ問題ない可能性もあるのではないかという疑問が生じます。
私が調べられた限り、やはりShimanoと異なりSRAMのオリーブは変形している感じがないため再利用できるのでは、と考察している記事がいくつか見つけられました。コグスさんの回答でも推奨はされないものの実際のところ使用できてしまうと微妙な表現をしていましたが、これまでの判断材料から考えると使用できるのは納得がいきます。もちろん、正常な耐久性が担保されるかなどの問題はありますが。
②何をもって再利用なのか定かでない問題
さらに興味深い記事を発見しました。
perfect-comes-from-perfect.blogspot.com
要は「ホースをカットしてもともと付いていたオリーブを再利用して新しい切り口に装着する」ことと「ホースはカットせず左右の付替えのみ行う場合」は同じ扱いなのか、という疑問です。この記事の中でのShimanoの公式の回答によると、オリーブをホースから外さない場合にはオイル漏れの原因になる可能性は低いということです。
理屈的には一度接続した時点でオリーブの変形が発生するはずなので、ホースカットして取り外したオリーブであろうが、単に接続し直すオリーブであろうがどちらもここでいう再利用に該当するんじゃないかと思いますが、上記記事によれば公式から単純に左右の付替えを行う場合では再利用可能と回答を受けているようです。
結論:オリーブとインサートは再利用できない
様々な意見や考察が散見されますが、やはり組み換えだけだとしてもオリーブとインサートの再利用になると考えてやめておきましょう、というのが結論になりそうです。
ブレーキが急に効かなくなった場合はディレイラー等と異なり命に関わる事故に繋がるので、やはり命を預けるパーツには憂いを残さないほうが良いだろう、と思います。
ただし、それでも個人的にはSRAMなら単純な再接続なら大丈夫そうな気がします。ダメだった場合はフルード漏れが起こるはずですが、それは突然全くブレーキが作動しないような発症の仕方ではなく、徐々に効きが悪くなる≒シフターがスカスカになっていく、のどちらかだと思うので、その時点でオリーブを交換してブリーディングし直すので良い気はします。
結論は最初から出ているのになぜこんな長々検証したかというと、やはりSRAMの入手性の問題です。消耗品でいうとチェーンやブレーキパッドなんかは2022年11月現在、海外通販を使わなくともすぐ入手できるのですが(多少上乗せ価格になっていますが)、オリーブやブレーキホースはかなり厳しいです。また10-33Tスプロケットなんかはもう絶望的。オリーブとかホースはそもそも単品では公式に扱っていない疑惑もありますし、少なくとも正規品と確定できるものは見つけられませんでした。パッケージ的に正規品に近そうなものでもオークション等でオリーブ2セット7000円、みたいな法外な価格で出品されていたりします。
SRAM完成車が増えつつある今日この頃なので、少なくとも国内の通販まで使えば安定して供給されるようになることを祈るばかりです。
追記:やはりSRAMのオリーブも変形する
購入店への問い合わせの回答を受け、やはりオリーブを交換した方が良いと考えて再度ホースカット、新品のオリーブを用いて接続しました。
SRAMのオリーブはShimanoに比べ変形が少ないと書きましたが、取り外して見ると圧縮される方向に変形しているのが確認できました。やはりSRAMであっても一度圧縮ナットを締め込んだらオリーブは変形します。一度でも緩めたらオリーブは交換したほうが良さそうです。オリーブは一度締めたら赤子鳴いても緩めてはいけません。
左:新品のオリーブ
右:一度接続し、取り外したオリーブ