山と自転車

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【エクストリーム登山のススメ】甲斐駒ヶ岳 黒戸尾根日帰りピストン2022.7

黒戸尾根って?

黒戸尾根は山梨県の誇る名峰、甲斐駒ヶ岳に至る登山道です。その標高差は脅威の2200m、日本三大急登の一つです。標準コースタイムは15時間にもおよび、獲得標高は実に2500m近くなる過酷な道のりです。日本百名山の生みの親、深田久弥氏が「日本アルプスで一番きついルート」と称したのがここ黒戸尾根です。一般的なのは途中の七丈小屋を利用して1泊2日で挑むルートですが、健脚者は日帰り登山も可能です。体力自慢を自称する身としていつかは挑まねばと思っていました。

そうして計画した日は小雨が降る眺望ゼロ確定の日で、景色目的に登山をする私にとっては初めて登山自体が目的となる登山でしたが、挑戦という新しい山の楽しみ方を知りました。

山行データ

登山計画について

知り合いが登った話を聞いたりネット上で見かける山行タイムを見るに自分の脚ならば12時間見ておけば大丈夫だろうと判断しました。5時からアタック開始して17時頃に下山する見込みです。多少遅れても明るいうちに下山できるようマージンを確保しています。実際には19時頃まで視界が保たれるのでかなりマージンを取っています。

当日

天気予報はあいにくの雨です。終始晴れることはなさそうですが、降水量的には1-2mm程度なので気温低下がそれほど問題にならない夏季の日帰り登山であれば遂行可能ではある数字。景色目的に登る自分にとって登山に向かない日なのは分かっていました。当日は一応予定通りに起きたものの外は予報通りの雨、小雨ではあっても雨。それでも時間が遅れると山行が成り立たなくなるのでとりあえず予定通り車には乗りました。

荷物は最小限にして、一眼カメラですら置いていき昼食は湯沸かしのみのスピードハイクに決め、最寄りのコンビニで食事を揃えている間も本当に迷っていました。どう考えても雲が厚いし、てんきとくらすの予報では降り止んでいる時間のはずが小雨が続いていたからです。

今なら帰って二度寝してリセットできる、と思いながらも他にやりたいことがあるわけでもないし、消化不良になるのは間違いないし、何より今日を逃すと今シーズン初登山がジャンダルムになってしまう(翌月にジャンダルムアタックを計画していました)

車内で朝食を摂りながらうだうだしていると、隣に車が止まり同じく登山の格好をしたパーティが出てきました。彼らがさくっと買い出しを終えて出発する姿に背中を押され、無理だったら帰ればいいさと思い、こちらも決行することにしました。

黒戸尾根スタート

尾白川渓谷駐車場に車を停め、いざクライムオン。今回は黒戸尾根日帰りアタックという「挑戦」であり、天候に反してクリアできるかどうかワクワクしている自分が居ることに気づきます。「黒戸尾根?日帰りで登ったけど、泊まりの方が楽しめると思うよ」なんて言いたい。黒戸を落とした側になるんだ俺は。

今回は普段と異なるモチベーションに突き動かされていたので、結論としては景色が見えなかったものの不思議なほどの満足感がありました。

まずは駐車場から尾白川渓谷まで歩き、橋を渡ってから日向山方面と黒戸尾根方面の分岐を目指します。道は南アルプスらしく、行程の9割は晴れていたとしても景色は見えないであろう樹林帯です。しかし樹林帯は雨から身を守ってくれるので今回ばかりは救われました。

刃渡り

黒戸尾根の難所で危険箇所として有名な刃渡りです。ちょっと身構えていたものの、振り返ってみると特に危険を感じることはありませんでした。結構色々登ってきて経験を積んだ結果山ヤは頭がおかしいと言う側から気づけば言われる側に都落ちしていた私からすればこのくらいで難所とは思いません。

樹林を抜けてもこの景色です。きっと晴れていれば甲府盆地とか富士山とか見えたんだろうと思いますが今回の目的は景色ではなくクリアすることなので淡々と脚を進めます。初めから無の時間なのは分かり切っていました。

五合目

こんなんでも今回最も景色の良かった瞬間の写真です。

二本の剣

2本の剣。由来は調べてみましたがはっきりしません。山岳信仰の関係だということくらいしか情報がありません。

甲斐駒ヶ岳山頂

淡々と進むこと山行開始から約5時間半、甲斐駒ヶ岳山頂に到達しました。昼食がてらしばらく滞在し一応期待してみましたが晴れることはなく、それどころかしっかりとした雨が降り始めたので予定通りすぐ下山開始します。

ちなみに北沢峠から登ってくる登山者とはこの山頂直下で合流することになりますが、山頂にいる人々を眺めているとと何となくどっちから来た人かが分かります。面構えが違うってやつです。

alu.jp

レジャーとして楽しんでいる雰囲気の人は北沢峠組で、極端な軽装備であったり他人を寄せ付けない孤高の雰囲気をまとっていたり、とりあえず尋常でない様相の人は黒戸尾根組です。

感想とまとめ

・一般的な登山なら4回は頂を踏めるくらいの運動強度
・夏山であれば技術的な難易度は低い
・ヤマレコの地図を見る度、進んでいるのに進んでいない(距離が長過ぎて進んでも誤差にしか見えない)
・七丈小屋の給水がなかったら相当苦しい
・甲斐駒ヶ岳が見えても安心してくださいまだまだ登山は終わりません
・8合目から先、スカイツリー1本分の登りが残る(普通残り100-200アップくらい)
・自分との対話の時間
・健脚は前提として、精神力の勝負

冒頭に書いた通り、今回は景色が期待できないことは分かりきっていたので、今回は黒戸尾根日帰りをクリアできるかという、登山すること自体が目的の登山でした。私は景色を見るために山に行きます。その目的は今後も変わらないと思いますが一方で景色を見る以外の楽しみ方があることを知りました。知ってしまいました。世の中に一定数存在する、槍ヶ岳やら水晶岳を日帰りで登る人の気持ちが少しだけ分かってしまいました。景色が見られなくとも、自分にとってのチャレンジであれば楽しむことができるということを知ってしまいました。

今回、休憩込み12時間を想定していた山行は10時間を切り、大幅に速くクリアできたので自信が付きました。この日を境に槍ヶ岳日帰りとか丹沢日帰り大縦走が頭をよぎるようになりました。なってしまいました。

天気が悪く景色が見込めない日には〜〜日帰り、とかタイムアタックとか、チャレンジングな登山をしてみてはいかがでしょうか。天気が悪いからこそ、景色以外の目的を持って登りませんか。そんな新しい登山の可能性を感じるかもしれない、エクストリーム登山のススメでした。