山と自転車

登山や自転車に関することを綴っています

【日本アルプス難所】2022.8 ジャンダルムアタック 西穂高岳〜奥穂高岳 1泊2日テント泊縦走

ジャンダルムの上に立ちたくて

西穂高岳〜奥穂高岳、1泊2日テント泊縦走の記録です。西穂高岳から奥穂高岳までは一般登山者は進入禁止、上級者向けの危険なルートで地図上は破線ルートになっています。いわゆるアルパインクライミングを除けば国内の登山道としては最高難易度かもしれません。別にデンジャー・ゾーンハンターではないのですが、気づけば剱岳、大キレット、とステップアップして遂にジャンダルムを落とすに至りました。

行程

1日目:新穂高ロープウェイから西穂高岳、ジャンダルムを経て穂高岳山荘でテント泊

2日目:穂高岳山荘から白出沢ルートで下山し新穂高ロープウェイへ

パーティとしては初の破線ルート、そして初のコースタイムオーバーとなりました。

テント泊も完全予約制な西穂山荘

今回のパーティは私と師匠、HG氏の3名。剱岳やら大キレットやら難所を落としてきた精鋭メンバーです。

当初の計画では初日は昼頃に出発し、西穂山荘でテント泊する2泊3日の縦走を考えていたのですが、コロナの影響で西穂山荘はテント泊含め完全予約制となっていました。

テント泊は大丈夫だろうと直前まで調べもしなかったため予約は取れず、代わりに登山口近くの飛騨高山に前泊し山行としては1泊2日で挑むことになりました。

今回の装備。初日の昼食担当だった関係で食材が多くこの重量。加えてミラーレス一眼+広角レンズで1.5kgくらい。25kg背負った白馬岳テント泊の経験があるので、15kgくらいなら個人的には及第点です。

スタート地点は新穂高第二ロープウェイで、第一ロープウェイに向かう道の途中で分岐があります。最初に出てくる無料駐車場に停めて少し歩いて登ります。たまたまヘリの荷降ろしに遭遇。

始発を1本逃し2本目に乗る形になりました。見たところ日帰り装備の人ばかりで、重装備な我々は怪訝な視線を向けられます。

西穂山荘 スタートにして最後の補給

ロープウェイを降りて1時間ほど樹林帯を登っていくと西穂山荘。今回の新穂高ロープウェイ〜奥穂高岳までの縦走ルートでは最初で最後の補給ポイントです。

西穂山荘以降は森林限界を超えた稜線歩き。事前の予報に反して早くもガスってきました。

夕方までは時折晴れ間が出る程度のガスガスの日でした。上高地方面。例年に比べ川が干上がっているような印象です。

西穂独標

以前残雪期登山として来たことがある西穂独標。直前の岩場がおっかなかった記憶ですが、夏場に見れば普通の岩場でした。

独標以降は未踏の領域。冬は明らかに独標で行き止まりになっているように見えましたが道は続いていました。

独標以降は有名なピラミッドピークをはじめ、複数のピークが連なっています。アップダウンが激しいのかと思っていましたが、ほとんどのピークはあまり登りを意識せず通過してしまいました。振り返ってみるとあれがピークだったみたい、という感じです。

西穂高岳山頂

登山開始から4時間ほど。西穂高岳山頂に到着し昼食をとります。この先に見えるはずのジャンダルムをみんな待っていました。

昼食がてら30分ほど待っていると一瞬だけジャンダルムが顔を出しました。手前の稜線と明らかに高度が異なる場所で、一同絶句。

もしかして俺らってあそこに行こうとしてる?

そうだよ

(山ヤって頭がおかしいな)

西穂高岳〜奥穂高岳 破線ルートに突入

そしていよいよ核心部へ。大丈夫、経験値は十分積んできた…。

さすがに破線ルートだけあって、これまでの道とは明らかに様相が変わります。

垂直登攀も鎖こそありますが、一般ルートと異なり足場に使える場所が明らかに少ないです。

西穂高岳までは多少のアップダウンはありながらも所詮はよくあるやつの範疇です。

しかし破線ルートに入るとエグいほどのアップダウンが続くようになります。ひどいと100m以上降ろされます。

崖じゃん

マジか…(高所恐怖症)

断崖絶壁。正規ルートなのが信じられません。

待って待って足かけるとこないじゃん

これどうやって行ったの?

そこに足場があると信じて飛べ!!!!!

夕刻に近づくとようやく、上高地方面から晴れてきました。

明神岳の稜線がかっこいい。遠目に見ると苔むしているようで君が代。

西穂高岳以降の道にはそれまでと大きく異なる点をまとめます。

・印はあるけど道には見えない

・垂直に近いアップダウンばかりになる

浮き石がめちゃくちゃ多い

アップダウンは体力勝負として、浮き石がこのルートの急所だと思います。

ここしか足置けないよねってところも平気で動きます。一番恐ろしいのが通常動くわけない大きさの岩も平気で動くところで、大きさで判断してエイヤと行くと文字通り死にます。どの登山雑誌でも浮き石に注意と書かれていたので気持ち的に備えておくことが出来ていましたが想像以上。知らずに来ると進めなくなるんじゃないかな…。

ジャンダルムの上に立つ

何度か死ぬ一歩手前になりながら遂にジャンダルムの頂に立ちました。ここまで9時間近くかかっています。技術と集中力勝負なのは分かりきっていましたが体力的にもかなりハードだということが誤算でした。同じ装備で歩いた大キレットとは比較にならないくらい過酷です。

あ、天使が見えてきた

たぶん俺ら死んだんだと思う

ジャンダルムまで来たら終わりな気でいましたがそんなことはありません。続く馬の背ピーク前後の稜線がなかなかに強烈です。

印がなきゃ道とは思えない(印があっても道とは思えない)。

印がなきゃ(ry

馬の背まで来てようやく手が届きそうになる奥穂高岳。

前穂高岳と明神岳。

ようやく姿を表した槍ヶ岳。右側の駒形のピークは北穂高岳。

奥穂高岳山頂 

奥穂高岳山頂からジャンダルム。近く見えますが(実際直線距離的には近いですが)安易に行ける道ではありません。

500m下方には涸沢カールがあります。

日没ギリギリ、穂高岳山荘に到達

19時頃、予定より大幅に遅れてライトなしで行動できるギリギリで宿泊地、穂高岳山荘に到着。めちゃくちゃに怒られるつもりで受付をしましたが、むしろ労っていただきました。計画の反省点も多いところ。小雨が降ったりやんだりの状態で霧に包まれていきます。

3000m級の星景撮影

星景 奥穂高岳と穂高岳山荘

夏山の特性として「午後になるほど天気が崩れ、深夜には晴れる」ということがあります。

日中は日が昇るにつれ地表近くの空気が温めらるので、午後になるほど山の斜面に沿った上昇気流が発生し標高が上がるにつれ冷やされて雲が発生します(太陽により近い山の空気の方が暖かくなる気がしますが、地表の照り返しの熱が強いので地表近くの空気の方が温められます)。夜には逆の機序で下降気流が生じるため、日中が散々でも夜は晴れることが多いです

AM2時頃に目を覚まし、テントを開けてみると案の定の星空。

テン場方面。地表の明るいところは長野市方面。

穂高岳山荘の裏側、奥穂高岳と西穂高岳方面。

君は真夏のオリオン座を見たことがあるか

右の明るいところは安曇野〜松本市街。夏のオリオン座は真夜中、地平線近くに見えます。

愛機OM-D EM1mk2のライブコンポジット撮影です。星のぐるぐる写真は本来は数十枚の長秒露光写真をあとからパソコンで比較明合成する必要がありますが、これがカメラ本体のみで撮影できる画期的な機能です。モニターでリアルタイムで星の線が伸びていく様子を見ながら撮影ができます。30分間頑張りましたが寒さに耐えきれず撤退しました。

下山

迎えた下山日。6時起床、7時近くになって超優雅なモーニングを過ごします。

今日は下るだけだよ

楽勝楽勝

良かった良かった

じゃあもう終わりか

ジャンダルム

穂高岳山荘の裏側。目の前に見えるのは新穂高ロープウェイの真向かいに位置していた笠ヶ岳。

穂高岳山荘テント場。棚田のようになっていてさらに上の方に区画がありトータルで40張くらいキャパがあります。写真は山荘に一番近いところ。

2000mの急降下 白出沢ルート

穂高岳山荘の裏側に当たる、白出沢ルートで下山開始します。確かに下るだけではあるのですが、2000m急降下するしよく崩れて通行不能になるし道は分かりづらいしで明らかにいつもの下山のそれではありません。数パーティとすれ違いましたが登るのは本当に勘弁なルートです。

あの、師匠

さっき楽勝楽勝って

(この人ニホンザル並みに下山速いの忘れてた)

下ノ廊下のような壮絶な道が続きます。ちょっと滑ったら死ぬ度は西穂高岳→奥穂高岳間と同じかそれ以上です。なんなら砂利で滑りやすいので足場の条件はさらに悪いです。

アドベンチャー要素あふれる道。この梯子とんでもなくなげえ。

驚異の2000m急降下の最後、重太郎橋を渡るとようやくよくある感じの登山道になります。以降は危険箇所はなく、槍ヶ岳に向かう右俣ルートと合流して林道を下り新穂高ロープウェイにたどり着きます。(第二ロープウェイまで走破する気力はなく第一ロープウェイに乗った)

破線ルートを走破した感想

走破した感想としては、まずソロで行ってはいけないと強く思いました。求められる体力・技術・集中力はかなりのものですし、ルートファインディング能力、登攀時の足場の見極めも必要になります。軽装だとしても補給なしの長時間行程になるので、ソロで安全性を担保するのは難しいと思います。

また、自分のように難所といっても大キレットくらいでしょ?と高をくくっていると次元の違いに恐怖することになります。

その筋ではメジャーとはいえさすがに破線ルートなだけあり高難易度の一般登山道とはぜんぜん違います。

毎年滑落事故が起こるのも納得で、今回パーティ全員が無傷で下山できたのは幸運だったと思います。(今年2022年も同ルートで滑落事故が起きている)

日本アルプスの難所で憧れだった剱岳、大キレット、ジャンダルム。

いつか行けるかなと冗談半分で話していた頃から4年ほど経ち、全て制覇するに至りました。

難所シリーズは一段落かなあ

さすがにもうないんじゃない?

次は北鎌尾根やるよ

終わりなんて訪れない。たった一度の人生程度じゃ、ごく一部を体験するくらいしかできない人智の及ばない世界。山はいいぞ、本当に。