南八ヶ岳縦走
都内からでも3時間かからず登山口にアクセスできる好立地ながら本格的な登山が楽しめる八ヶ岳。これまで何度登ってきたか分かりません。ホームマウンテンは?と聞かれたら八ヶ岳と答えるくらいには大好きで馴染み深い山域です。そんな八ヶ岳は編笠山、権現岳、赤岳、硫黄岳天狗岳etc...有名どころは一通り登りましたが唯一阿弥陀岳が未登頂のままでした。
時は2023年11月3-5日の三連休。奇跡的に4,5と連休が確保でき翌日休みで山に登れるという滅多にない機会が訪れたので、阿弥陀岳を含むガッツリソロ山行を計画しました。ボロボロになろうが帰りが遅くなろうが翌日休みなら無敵です。
コース
大昔に一度計画した、阿弥陀岳から硫黄岳まで縦走する周回ルートです。スタート地点はいつも通り赤岳山荘です。阿弥陀岳単独であれば美濃戸口から入るのも一般的ですが、今回は標準CTが10時間近くに及ぶためより山に近い赤岳山荘からの周回です。美濃戸口→赤岳山荘はそれなりに距離があるのと車両通行可能なゾーンなので私は基本的に赤岳山荘から入山することが多いです。というかこの美濃戸口→赤岳山荘の道のりを厳冬期でも踏み入れられるようにジムニーを買いました。
今回のルートを歩くとこの横倒しのエリンギを描くことになります。
暗闇の中 赤岳山荘スタート
三連休中日、夕方の中央道上りの渋滞は分かり切っていたのでなる早で山行を終えるべく、3時に起きて3:20頃に自宅を発ちました。さすがにこの時間では時間帯の割に車が多かったものの渋滞は皆無で、2時間ほどで赤岳山荘まで辿り着くことができました。
駐車場はすでに9割埋まっていて焦りました。やはり山ヤの朝は早い。駐車場代は1000円/日ですが山荘が暗かったので帰り際に払うことにしました。
登頂開始時点ではまだまだ夜という感じで、念のため忍ばせたヘッデンが必須な状況でした。こんな早くから動くのが久々で感覚を忘れていました。
赤岳鉱泉・硫黄岳方面の北沢ルートと行者小屋方面の南沢ルートの分岐点。今回のルートでは南沢ルートから入り北沢ルートで戻ってきます。
1時間もすると空が明るくなってきました。多少の雲はあるも晴れそうで安心しました。
途中、見慣れない進入禁止のテープを見つけました。台風の影響か何かでしょうか。
向かって右側に迂回路が設けられていてちゃんとテープも貼ってあるので安心。
山が見えてくると行者小屋はすぐそこです。
行者小屋
行者小屋には多数のテントが張られています。ということは皆昨日から休みだったんだ、羨ましすぎる。見上げるとすぐ赤岳が見える好立地なテン場です。
トイレの方向には硫黄岳が。
本日の第1座目、阿弥陀岳を目指します。赤岳方面と途中まで同じ道になります。
阿弥陀岳・赤岳分岐
ここから先は未開のルート。阿弥陀岳方面を進みます。
しかし八ヶ岳の森は何度来ても良いですね。登山道は整地されているのに原生林のような雰囲気が味わえます。
阿弥陀岳方面の道は意外と短く、一度視界が広がると稜線まではすぐそこです。
ふと足元を見ると霜柱。外界は例のない夏日続きで半袖で過ごしていましたが、11月って普通冬だよなと実感。山に来ると正しい四季の感覚に修正されます。
どんな山でもこの稜線まであと一息、のところがたまらなく好きです。知らない景色でもすでに知っている景色でも関係なくいつもワクワクします。
中岳のコル
富士山ドーン!雲の形も面白くて今日は良い日です。ああ、生きてて良かった。3時に起きた甲斐があった…。
この中岳のコルは阿弥陀岳と赤岳方面との分岐点になっています。
まずは阿弥陀岳へ。30分程度なのでザックをデポして身軽に行きます。
阿弥陀岳山頂(北陵)
1/4座目、阿弥陀岳山頂2805mです!
諏訪方面の眺望
地球を感じるフォッサマグナ。北杜市〜諏訪湖までの山の谷間に連なる街並みが一望できます。ここに来て気づきましたが八ヶ岳の麓エリアは紅葉がとても良い感じに。
山座同定
恒例の山座同定タイムです。名は体を表す編笠山に、権現岳です。
権現岳は昨年10月に初めて登頂しましたが、見た目のゴツゴツしたイカつさとは裏腹に登山道はそれほど危険ではなく、無積雪期であれば岩場慣れするのにちょうど良いと思います。
その奥には南アルプス。山頂がわずかに白んでいる程度で、積雪はまだまだのよう。
北を見るとだいぶ厚い雪化粧を施した北アルプス。槍と大キレットは遠目からでもすぐ分かります。
その手前には美ヶ原と霧ヶ峰。こちらも紅葉が良い感じです。今の時期は両者を結ぶビーナスラインが気持ちよさそうです。特に霧ヶ峰の一面に広がるすすきは現実離れしていてどことなく儚い美しさがあります。
さらに西に目を向けると大キレットの山脈からちょっと離れたところに白い山が。このブログではロードバイクのヒルクライムでお馴染み乗鞍岳です。
さらにさらに西に目を向けると一際高い単独峰、御嶽山です。御嶽山は未登頂ですが神様のカルテ好きな私にとって特別な山で、同定しやすいし形も好きなのでこのブログでは頻繁に登場します。
山頂には阿弥陀岳南陵方面を示す標識。しかしここは一般ルートではないらしいです。破線ルートのヤバさは西穂-ジャンダルムで味わったのでもうしばらくいいです。
阿弥陀岳から中岳、赤岳方面を見ます。
ジグザグの登山道と豆粒以下の極小の登山者の姿が。
次は赤岳方面を目指すべく中岳のコルに戻ります。テン泊組が動き出したのか他の登山客が追い付いてきたのか、かなり大勢とすれ違いました。
これは先程見ていたジグザグです。空の晴れ方も良い感じになってきました。
阿弥陀岳方面から中岳を登って下りると、行者小屋から赤岳に繋がる文三郎尾根を上りきったコルに合流します。ここまで来ると赤岳山頂までもうあと僅かです。
個人的ベスト景観 中岳・阿弥陀岳
八ヶ岳の好きな景色はたくさんありますが、私が一番好きなのがこの文三郎尾根を上りきったところから見る中岳・阿弥陀岳です。苔むすような中岳にゴツゴツした阿弥陀岳、そして背景に広がる空とフォッサマグナ沿いの街並みの組み合わせがとても美しく感じます。
写真の教科書からの受け売りですが、山岳写真では敢えて山頂は入れず見せたい山肌を切り取ると先が続いていく想像を掻き立てられて山の険しさが際立ちます。12-100mm(35mm換算24-200mm相当)レンズは本当に汎用性が高くて神レンズです。
赤岳頂上直下。鎖も多く手足を使って登るクライミングゾーンですが、見た目ほど難しい場所ではないので、ある程度岩場慣れした人なら挑戦できると思います。厳冬期はさすがにタマヒュンでしたが。
赤岳山頂
スタートから4時間ほど、2/4座目の赤岳山頂です。写真じゃ伝わりませんがいつも通り爆風でした。
秩父方面。写真では分かりづらいですが金峰山と瑞牆山が見えました。
山頂の様子。三連休らしく賑わっていました。
中岳・阿弥陀岳の景色は赤岳山頂から見るのもスケールが大きくて良いのですが、さっきほどの目の前に迫る感じはなくなってしまうので、やはり個人的には赤岳直下の先のポイントの方が好みです。
多くの人はここで休憩したらあとは下山だけなのでどことなく安堵したような、緊張がほぐれたような雰囲気がありましたが私の場合なんとまだ距離的には半分に達していません。赤岳から硫黄岳まではすぐそこだと思っていましたが…
遠いな!!!!!
写真ど真ん中のなだらかなところがゴールの硫黄岳です。今見るとすぐそこに見えますが、ここに居た時はめちゃくちゃ遠く見えました。山の体力には人より自信がありますが3時起きでここまで来ていよいよアドレナリンが切れました。あと爆風吹きざらしなのがめちゃくちゃ消耗します。
調理する時間も元気もない可能性を見越してお湯だけで食べられる昼食をチョイスしたのは正解でした。あといつもの外界が暖かいと舐めプして山頂で死ぬやつの例に漏れず、指先が出るタイプのグローブしか持ってきてなかったので凍傷になるかと思うくらい冷えました。
食事による回復≧爆風による消耗でプラマイゼロくらいのコンディションで、撤退するか完遂するか一瞬悩みました。しかしまだ午前中で自分のペーストしては遅いものの標準CTよりは早く歩けていたので撤退する理由がありません。明日休みだしな…
それにしても見事な紅葉です。
赤岳展望荘
まずは赤岳直下の赤岳展望荘に下りてきます。たったこれだけの移動でも風の強さがずいぶんと変わります。八ヶ岳というか山の不思議なところです。
進行方向。なかなかの登り返しです。正直もうええわって感じです。疲れました。
硫黄岳遠いなァ…てか横岳高いなァ…
左下には行きに経由した行者小屋と帰りに経由する赤岳鉱泉が見えました。両方いっぺんに見えるのは知りませんでした、新しい発見。
point of no return
赤岳から硫黄岳の縦走路は途中で行者小屋に逃げるエスケープルートが存在します。しかしここを過ぎるともう硫黄岳まで行って赤岳鉱泉に下りるしかなくなります。2年前に呑兵衛仲間と寝不足で来た時はここで逃げましたが、今回は横倒しエリンギを自分の脚で描くため、進軍します。
グエー高いンゴ
ここから文句ばかりですが決して横岳が特別キツいわけではないと思います。これが1座目ならもっとウキウキ登ってたと思います。阿弥陀から赤岳&爆風を食らってヘロヘロになっているだけです。
そんなヘロヘロでも振り返ると今まで歩いてきた道のりが一望できるので何とかがんばるぞいという気持ちになってきます。
先程紹介した敢えて山頂を写さないテクニックです。我ながら確かにこっちの方が迫力ある写真になります。
それにしても赤岳展望荘以降、歩けど歩けど全く進んでいる感じがしなくなってきました。先の道のりも同じような見た目で正直飽きてきました。
横岳山頂
赤岳山頂から2時間弱、スタートから5時間半、本日3/4座目の横岳に来ました。いやーーー本当に長かった、赤岳以降弱まったとはいえそれなりの風に吹かれ続けたのでかなり消耗しました。
直下に見えているのは硫黄岳山荘です。また登り返しがきつめに見えますが流石にここまで来るとようやく硫黄岳があと少しという感じがしてきました。
横岳までと打って変わって、なんて穏やかな稜線なんだ硫黄岳。
まあ、そこに行くまではちょっと険しいんですけど…。
硫黄岳山荘
ようやく難所をすべて超えた感があります。ここは昼食や飲み物休憩で屋内を使わせてもらえてありがたかったです。
500円のココアを注文して薪ストーブの前で一服。自転車の時もそうですが一度脚を完全に止めてしっかり休むのはとても大切なことです。そこで暖かい飲み物があれば完璧です。夏の乗鞍の位ヶ原山荘での起死回生のコーヒーを思い出しました。
今度は無風かつストーブがある最高の休憩ができたのでだいぶ脚が軽くなりました。残す硫黄岳まではこんな穏やかな稜線を歩くのみ!
硫黄岳山頂
横岳から1時間、スタートから6時間半、ついに4/4座目の硫黄岳山頂を踏みました!
硫黄岳山頂はとても広々していて無限に休憩できる感じです。
硫黄岳といえば爆裂火口。実は無積雪期に見るのは初めてです。
今回の縦走路を振り返ります。右端の阿弥陀岳から中央赤岳、こうして見るとやはりかなり長い道のりでした。
北の方には2峰の天狗岳。こちらも無積雪期の姿を見るのは初めてです。まるでカールのような曲線が美しいです。山肌の色もとても良い。
天狗岳方面にやたら白い場所が…拡大してみても雪ではなさそうです。なんなんだろう。
赤岳展望荘から横岳への道、結構険しいです。頑張ったんだなと自分を褒めたくなります。
最後の穏やかな稜線を振り返ります。
こちらは下山方向の稜線です。また白い山肌。
うーむ、美しい。硫黄岳が人気なのはこういう独特の景観が見られるのも大きそうです。
ここからはゴール地点までひたすら下山です。稜線とはここでお別れ。
赤岳鉱泉
厳冬期のアイスキャンディ、夕食のステーキが有名な赤岳鉱泉。ゴール地点までの最後の補給・トイレです。このあとは北沢ルートを下って赤岳山荘を目指します。
途中で見かけた行者小屋のジムニー。オリジナルペイントがめちゃくちゃ良い。自分のジムニーもオリジナルにしてぇ…。
山の上から見えていた通り、明るいところで見るとずいぶんと見事に紅葉していました。
毎年山で外界より一足先に紅葉を見て満足して、外界の紅葉の時期にはもう雪山のことしか考えていない私です。山ヤあるある。
はるか前に通過した北沢南沢ルート分岐点まで帰ってきました。
スタートから8時間半で愛車の元へ帰ってきました。いやー、長い長い道のりでした。
もみの湯
下山後は温泉施設もみの湯に立ち寄ります。八ヶ岳エリアは温泉施設がたくさんありますが、今回の赤岳山荘、美濃戸口から車で20分くらいの近いところにあるこのもみの湯がおすすめです。
一般利用でも650円(600円だったかも)と良心的な上にサウナ・水風呂までついて休憩スペースもあります。ここのサウナ・水風呂は温度がとても良い感じなのですが、マットがないので生肌では火傷します。必ずタオルやマイマットを持ち込んでください。帰りは諏訪南ICが最寄りになります。
しかし帰路はさすがの三連休の中央道で、自宅まで往路2時間のところ5時間半かかりました。大月の手前から八王子ICを下りるまでほぼ全部渋滞で意味不明でした。
感想&まとめ
未登頂の阿弥陀岳を踏めて、ヘロヘロでしたが何とか日帰り大縦走を完遂できて大満足でした。南八ヶ岳の美味しいところ全部盛りなので非常に贅沢です。体力的にはタフですが技術的な難易度は決して高くないので良いコースでした。
しかし今回のルートは獲得標高約1800m, 距離も20km近いのでほとんどの人にとって日帰りで計画できるほぼ上限と言って良いと思います。エスケープ箇所もそれなりにあるので挑戦しやすいと思いますが、エクストリーム系に片足突っ込んでるくらいではあると思うので挑む際には体力とよく相談してください。眺望の良い稜線歩きが長く楽しめますが、八ヶ岳特に赤岳付近の稜線はなぜか爆風が吹くので外界が暑いとしてもハードシェル、防寒グローブを忘れないよう注意が必要です。
おしまい。