山と自転車

登山や自転車に関することを綴っています

安価で軽量で広い山岳テント、NEMO ATOM 2Pを4年使ったのでレビュー。

山岳テントNEMO ATOM 2P

私が本格的に登山を初めて6年目になり、山にハマった人の例に漏れず初期の頃に購入した装備がワンランク上のモノに置き換えられていく中で、初期からずっと使い続けているNEMO ATOM 2Pを紹介します。
このテントは山岳テントやマット等で名を馳せるアメリカの山岳メーカー、NEMO Equipmentの初心者向け、入門用という位置付けのモデルながら

・ダブルウォールの自立式テント

・短辺130cmの2人用テントながら1.58kg(公称)というまずまずな重量

・スリーブと吊り下げのハイブリッド式で組み立てが容易

・前室が広く使える長辺出入り口

・スペックの割に安価(記事作成時点で44000円前後)

と決して性能を犠牲にしたモデルではなく使い勝手が良くまとまっています。ある程度テント泊の経験値を積んだ現在でも特に不満なく使い続けられているので、コスパは非常に優れていると思います。

テントの外観

カラーはキャニオン。当時はグリーンが欲しかったですが、今になるとあまり人と被らないためテン場で探しやすく結果的には良い選択でした。

出入口の反対側にはベンチレーションが付いています。

山岳テントとしては一般的なダブルウォールでポールを2本交差させて自立させるタイプで、短辺130cm、長辺213cm、高さ112cmの2人用モデルです。一般的なダブルベッドの横幅が140cmなので、2人で寝るのもそれほど窮屈には感じません。

テント室内

中の図。1人で使うと寝るスペースの横にザックや他の道具が置けて非常に広々。ザック等を前室に出せば2人横になるのに十分なスペースがあります。また、出入口の反対側にポケットが付いていて、これが地味に非常にありがたいです。というのもヘッデンやスマホなどの小物は不思議なほど紛失しがちなので、暗い中で手探りで探せるのは大変に助かります。これは実際テント泊してみて知ったことでした。

寝ている状態から見た図。身体の左右にスペース的な余裕があるのでモノを散らかし放題。あとは寝る時に左右の壁に触れないくらいには余裕があるのでシュラフ濡れ予防にもなります。天井にランタン用のフックはありませんがベンチレーターの開閉口があるので、そこの取っ手に吊るしたりチャックで挟んだり、フック相当の使い方は可能です。

一番推したいポイント、長辺出入口で広い前室

テントの外であり中でもあるシュレディンガーの猫的なこの空間を前室と言います。私はこの前室が旅館の「あのスペース」こと広縁と同立一位に大好きな空間なので、長辺出入口には拘りたい。

長辺側前室のススメ。足を伸ばすスペースと調理・宴会スペース、道具置き場が同時に存在できるのは長辺側ならでは。

短辺出入口でももちろん前室はありますが、長辺側のそれほど広くはなく、靴などを端に寄せてもどうしても出入りが煩わしくなります。

あとは身体を起こせばすぐ隣の近いところにあるという使い勝手の良さ。短辺側では頭の向きよって体を起こして向きを変えるなり、足側に寄らなければいけなかったり、前室の利用にワンアクション増えてしまいます。

長辺前室は良いぞ。

ただし前室はフレームがなくレインフライのテンションによって生まれる空間なので、横着せずにちゃんと張らないと生地が弛んでスペースが狭くなってしまいます。

とはいえ適当に石で抑えたくらいでも、靴置き場+調理くらい余裕なスペースにはなるので長辺以下略。

@殺生ヒュッテ 大キレットアタックにて、前室から覗く槍沢。

夜間にそれなりの雨に降られたけれど、浸水はなし。

@雷鳥沢キャンプ場 剱岳アタックにて、前室から覗く雷鳥沢キャンプ場。

このテントを買って4年間、晴天無風の環境から夜間に土砂降りの雷雨を食らったり、爆風を浴びながら耐えたり一通り悪天候の中でも使用しましたが、一番重要な耐久性に関しては全く問題ありませんでした。自立型なので基本的に崩壊することはありませんし、強風時にはちゃんとガイラインを張れば相当な安定感があります。

昼夜の気温差が大きい時はさすがにテント内側に結露するものの、垂れてくるほどのことは一度もなく、このへんはさすがのダブルウォールの防御力でした。

構造上の注意点

このテントは主流の吊り下げ式(ポールでまず枠組みだけ自立させ、インナーテントをポールに吊り下げて自立させる)とスリーブ式(インナーテントの天井のスリーブにポールを通してテントを立ち上げる)のハイブリッド式になっていることが特徴です。

画像引用元:NEMO Equipment公式ページ ATOP 2P 商品ページより(https://www.iwatani-primus.co.jp/products/Nemo/atm-2p.html

テントの天井のみポールを通すスリーブがあり、4辺2ヶ所ずつ吊り下げる構造になっています。これは購入を一旦躊躇ったくらいには気になったところでしたが、実際に使ってみて完全吊り下げ式と比べて思いのほか気にならなりませんでした。むしろポールに対する頂点の位置がスリーブで規定される分、組み立て作業中は安定している気さえしてきます。

ただしスリーブがあるため完全吊り下げ式の「レインフライを自立させたままインナーテントを畳む」ことができません。晴れていれば関係ないと思いますが、雨の時の撤収時にはちょっとタラレバな思いをするかもしれません。

個人的にスリーブがある事自体は思ったほど気にならなかったのですが、スリーブである必然性はないとも思っているのでここはネガティブな要素と考えます。

 

4年間色々な場所で使ってきて、入門モデルとはいえ3000m級の稜線上でも張れて、悪天候時も本格的な縦走でも使えたので、山岳テントとしての基本的な性能は担保されているのは間違いありません。

細かな使い勝手や重量面では上位モデルに当然劣るものの、必要最低限な機能は備わっているので「困る」というほどのことはなく40000円弱(購入時)のテントとしては十分だと思います。

山岳テント、1人用にすべきか2人用にすべきか問題

もちろんトレードオフの世界なので正解などありませんが、個人的には2人で泊まる予定がなくても2人用を勧めます。

1人用でもスペース的には十分なのですが、テント泊では下界の生活ほど明るさや収納に恵まれないので、着替えや調理、パッキングなどの作業時にはスペースの余裕がないと結構ストレスフル。重量的な差は100~200g程度のことが多く、ウルトラライトに拘るのでなければ享受できるメリットの方が大きいと思います。(とか言いながらNEMO ATOP 1Pとは公称で0.3kgの差があった)

PEAKSとかワンダーフォーゲルのテント泊特集を見ていると、登山家や写真家、山岳ガイドが2kgとかのテントを愛用していたり、重量度外視で快適性を重視していたりと、意外と山のプロが超軽量テントでなかったりします。テント泊は縦走のための手段の場合と山でテントに泊まる事自体が目的になる場合と色々あるので、後者なら快適性を取る、というのは理にかなっています。山にテントを張る目的や好きな過ごし方によって最適なテントは変わってきます。

実際の使用例

@みずがき山自然公園キャンプ場

夜に土砂降りに見舞われながらも、テント内はサンクチュアリ。

@雷鳥沢キャンプ場

@涸沢テント泊

設営時から小雨で夜はなかなかの雨風(翌日は豪雨)だったけれどテント内はサンクチュアリ。

@白馬岳テント泊

夜は爆風に見舞われたけれどテントは揺れず。細君はずっと寝ていられたくらいには耐風性がありました。

@鳳凰三山テント泊

@道志の森キャンプ場
 

このテントで20泊近くしているのでそろそろ元を取ったと思っていますが、フロアが岩で裂けたのをゴアテックスシートで補修した以外は故障らしい故障もなく使えています。ダメになったら次は流石にもう少し軽いテントにしようとは思うのですが、長く使った分愛着もあるので壊れるまでは買い替えはなさそうです。あと戯言ですがとある登山の時に私のテントを見た通りすがりの登山女子が「ニーモの茶色のテントだかわいい〜」と言っていたことがありました。

最近はツエルト泊が十分実用に耐えうることを知ったので、超軽量な高級ダブルウォールテントを書い直すのではなく、ストイックに軽量化したい時はツエルトと使い分ければ良いかと思うようになりました。すると多少の重量を許容して快適性を取る、という用途にはベストマッチじゃないかと。(個人的には価格帯と2人用の割には軽いと思っていますが)

↓先日のツエルト泊実践。

www.mount-road.com

今はダブルウォールでも1000gを切るモデルがあったり、ダブルウォール並に結露が少ないと謳うシングルウォールがあったりしますが、モノによっては10万円近くすることも珍しくない世界なので、予算5万円以下で山岳テントを探すのであればアトム2Pは良い選択肢だと思います。また公式ページでは2023年モデルとして新しくATOM OSMOというテントが出ていましたが、定価が上がっているのと重量、スリーブ吊り下げハイブリッド式など基本的な使用は一緒だったので無印ATOMのコスパが際立っています。

100点のスペックがあるわけではありませんが、広い範囲で80点以上取れるくらいには癖もなく使いやすいので、初めてのテント、安くて快適なセカンドテントを探している人におすすめです。