山で酒が飲みたくて
「八ヶ岳最南端の編笠山にある青年小屋を拠点としたゆるテント泊登山で編笠山、西岳、権現岳の3座を踏み、日没と星空と夜明けを満喫してきた話」です。
山行データ
day1 観音平→青年小屋(テント)→西岳ピストン→編笠山ピストン
day2 青年小屋→権現岳ピストン→観音平
これまで燕岳、赤岳、谷川岳などをともに登ってきた前職場の同僚TK氏と、泊まり山行を計画していました。最初は下ノ廊下を予定していたのですが天候が怪しいため断念し、いつものように山で酒を飲むことを目的に据えて以前から気になっていた「遠い飲み屋」こと青年小屋に行ってみることにしました。
コロナの影響でもう山小屋はすっかり完全予約制が当たり前になっている現在、2日前に電話をしてみるも満室だったのでテント泊に切り替えました。寒い時期なのと約1年のブランクのTK氏の体力が懸念事項ですが果たして…。
結論、キツ過ぎずキャンプと登山の良いとこ取りができるおすすめコースでした。
編笠山・権現岳登山
登山口 観音平駐車場
スタート地点の観音平駐車場は中央道小淵沢ICより20分ほどの場所にあり、甲府の自宅から下道で約1時間で着いてしまうのでアクセスが良好です。TK氏は神奈川から参戦なので現地集合にしました。
テン場までのCTは3時間ほどと短く、正直昼くらいに出ても良いくらいでしたが過去の情報を見ると紅葉の時期はすぐに駐車場が埋まるという話だったので朝7時に集合しました。そんな前情報に反してまだ半分程度しか埋まっていない状況でした。
今回のテン泊装備は基本装備に加えてワイン1本、ビール500ml缶1本、日本酒四合瓶1本+食料2kgほどで総重量15kgほどです。TK氏は何を持ってきたのか16kgでした。
歩きやすい登山道
観音平は既に標高1500m台で、青年小屋までは標高差800mほどしかありません。青年小屋は編笠山、西岳、権現岳のちょうど中間に位置しているためテントを張ったあとは荷物をデポして各山頂にアタックすることができます。つまり実質的なテント泊登山は最初の800mさえ登れれば良いのでキャンプ感覚で余計な荷物を積み込めるのでした。
急登はなく斜度はほぼ一定で、八ヶ岳らしい原生林が続きます。
何も見えない展望台
途中にある雲海台。何も見えない展望台なんて評判すらあるこの雲海台。果たして…
写真の腕が良ければすすきと富士山でそれなりに良い場所のように写すことはできたかもしれませんが、ご覧の通り木々が茂っていて評判通りでした。
雲海台を過ぎると大きな岩が出てきて若干勾配が増して登山道らしくなります。それでも登山どころか有酸素運動に1年のブランクのある33歳が笑顔で登り続けられるくらいの運動強度です。彼は私を凌ぐ激務な社畜なので中々山に行けていませんでした。
生きてるー?
楽しい
俺、生きてる
遠い飲み屋 青年小屋到着
ほぼノンストップで2時間45分、ついにあの遠い飲み屋に到着しました。なんとまだ10時台です。山荘の前は広場になっていて、椅子とテーブルが2セット、小屋のテラスに1セット置かれています。山小屋の宿泊者でなくとも使えるようです。
そしてラブランコ。色んな意味でこわいので乗りませんでしたが、女性登山者が漕いでいるのを見る限りは壊れそうな気配はありませんでした。
青年小屋正面、編笠山方面は視界が開けていて富士山が見える好立地です。
こちらは小屋の前にあるトイレです。チップは100円/回でテント泊宿泊者はテント料金に含まれています。中は真っ暗。山のトイレは存在している事自体が非常にありがたいので汚いだの冷たいだの暗いだの文句を言う筋合いはないのですが、間違いなくこのトイレはこれまで私が経験した山のトイレの中で最強のスメルでした。ランキング作ったら覇者になれるポテンシャルでした。うえっ。
古き良き青年小屋
小屋の入り口は売店兼受付になっています。まださすがに早いのか売店としては営業しておらず、テント泊の受付を先に済ませます。名簿に名前、住所などを書いて募金箱にお金を入れるなんだかノスタルジーを感じる仕様です。テント泊料金はまさかの1人800円です。タイムスリップかと思いました。ネットで見た情報通りでしたが時は2022年、さすがに値上げしてると思いましたがそのままでした。なんて良心的。涸沢なんて今2000円もするのに…。
そしてさすが遠い飲み屋、酒とおつまみのメニューが張られていますがビールが3種類、選択肢があることにまず驚きます。そして日本酒は山梨の酒だろうと思いきやまさかの田酒が飲めるらしいです。しかも1合800円。下手すると下界の居酒屋より安いまであります。
広くて過ごしやすいテン場
テン場は小屋の脇にあり、木々に囲まれかなり整地されていて普通にキャンプ場という感じです。ただし山の中腹に位置しているので木々に囲まれている割には常に風が吹いていて寒いです。
トイレも近く多種の酒を売る山小屋もあり過ごしやすいテン場なのですが、唯一の欠点は水場が遠いことです。写真右奥に続く西岳方面への登山道を5分ほど歩かなければならないので、少なくとも夜に汲みに行く気にはなれません。ウォーターキャリア必須です。
本日のお宿完成です。先週の鳳凰三山テント泊が寒くて3シーズン寝袋だけでは心もとないと思ったので、SOLのエスケープヴィヴィを導入しました。また、いい加減寝心地を追求したくなりついにSEA TO SUMMITのエアロプレミアムピローを買いました。
ザックは良い意味で数字通りの容量ではないカリマーのリッジ30、まさかと思いパッキングしたら無駄な荷物多めのテン泊装備が入ってしまったから驚きです。
旅館の”あのスペース”と同じくらい、テントの前室が好きな私です。前室のためにテントは長辺入り口派です。
さて、本日は西岳、編笠山登頂が残っていますが重装備を下ろせる上にいずれも往復で2時間かからないくらいの道のりなので設営終了11時時点で実質的には終了です。最近何かしらが過酷な登山だったから久々にのんびりできるぜ…
戦闘糧食Ⅱ型
同行者のTK氏は山ヤであり元カメラマンでありサバゲー愛好家でもあり生粋のミリタリー好きでもあるそっち系おじさんです。本日の昼食はまさかの自衛官の友人からもらったという「戦闘糧食Ⅱ型」です。作戦中に火を起こさず、つまり敵に見つからないよう食事をするためのモノホンのサバイバル食です。一番大きな文字が転売禁止なのがジワジワ来ます。
このビニール袋も立派な調理器具になっています。仕組みとしてはホッカイロやシュウマイ弁当と同じくような感じで、ビニール内で生石灰と水を反応させて温めます。
…
なんか、マナー悪いキャンプ客が残したg
ゴミとちゃうから!!
中身はサトウのごはん的な、200gの白米に五目飯とおかずの肉団子です。カロリーを摂ることだけが考えられていて登山とも相性が良いです。ただしTKの保管期間が長すぎたためか、温まりきらず冷や飯でした。
ワイングラスwww
もう登山は終わった
青年小屋の裏手で明らかに朽ちて使わなそうな木片が落ちていたのでテーブル用に借りて、尻にフィットする石を運んで即席テーブルセットにしました。一応言っておきますがまだ2座分の登山が残ってはいます。
本日はまず西岳を登頂してから編笠山山頂で日没を見る計画です。前述のようにいずれも往復で2時間かからないくらいで標高差も低いゆるふわハイキングです。
1座目 西岳へ
食事を終えて西岳に向かいます。青年小屋-西岳は標高差がほぼないので森林浴ツアーです。
前情報通り5分ほど歩くと水場、乙女の水。
9月に連チャンした台風の影響か、斜面が崩落していました。
まさか眺望のないタイプの山頂ではないかと心配しながら歩くこと1時間、視界が開けてそうな気配がしました。
西岳山頂
西岳山頂2398mです。景色はどうかというと…
この通り、南アルプスと北杜市の町並みがドーンだYO!
さらに左方を見ると富士山と編笠山です。
南アルプス山座同定タイム。真ん中のちょんと飛び出ているのが先週登った鳳凰三山、地蔵岳の奇岩オベリスクです。さらにその左の一番高いピークが北岳です。
左手前、我らが山梨の誇る名峰甲斐駒ヶ岳です。左奥に見えるなだらかなピークは南アルプスの女王、仙丈ヶ岳。
東の方を見ると明日の目的地、権現岳が見えました。さらに左側には赤岳、阿弥陀岳がありますがそっちの方向は木々が茂っているので間からちょっとしか見えません。
編笠山の稜線を追いかけていくと青年小屋です。遠目に見ると何とも可愛らしいです。しかし我らのテン場は小屋の左側の樹林の中にあるためこちらからは見えません。
西岳からベースキャンプに戻るとまだ15時です。ピークの時はすし詰め状態にもなるというこのテン場ですが、この日はあと数組のテントが増えただけで終わりました。アクセスが良いし夏山シーズンは相当混雑するんだろうな。
本日の日没予定は17:02です。編笠山山頂まで30分なので15時半に出発し日没の過程全てをこの目に焼き付けようと計画します。天気は雲があるものの西方向は晴れていたので夕焼けが期待できそうです。
2座目 編笠山へ
編笠山まではまず岩稜帯があり、樹林帯に入って山頂に抜けるというちょっと不思議な登山道です。方向が分かりやすいので迷うことはありません。登りは140mほどなので転倒さえ気をつければサクッと登れてしまいます。
編笠山山頂 360度パノラマ
編笠山山頂2524m。八ヶ岳の山々の中でもちょっと低めですが360度のパノラマビューです!
まずは南を向くと富士山と甲府盆地から韮崎〜北杜市辺りの町並みが続いています。
東に目を向けると奥秩父山塊の最高峰、金峰山と瑞牆山です。
北を向くと「君の名は」の糸守湖のモデル諏訪湖です。なぜ諏訪かというと、新海誠監督は長野県の小海町出身だからだと思います。この近くです。そして奥には北アルプスの稜線が見えます。大キレットの凹みがよく分かりますね。
中央の一番大きく凹んでいるところが大キレットでその右には槍ヶ岳です。
西日の方向に目を向けると中央アルプスの山脈、そしてその奥に孤島のように佇む山ありにけり。これが霊峰、御嶽山です。やはり3000m級は遠目に見ると頭一つ高いです。
この時間帯の景色の変化は1秒単位です。気付けば富士山が焼け始めています。
諏訪の東側、霧ヶ峰高原です。今の時期はすすきに覆われているので遠目でも黄金色に。
手前の霧ヶ峰から奥の美ヶ原高原。間はビーナスラインで結ばれています。
北岳の高さ際立つ南アルプス。
山頂で日没を迎える
眼下には西日に焼けた黄金の山麓が見えていて、まるでナウシカ。その者蒼き衣を纏いて黄金の野に降り立つべし。
西日に照らされる八ヶ岳の山々。左から阿弥陀岳、ど真ん中が赤岳でその右側は権現岳。
カメラを構える姿が堂に入る、元カメラマンTK氏。
燃える赤岳。
大好きな景色、夕焼けを山の上で見る夢がついに叶った瞬間でした。何度も山に泊まっていますが、宿泊地が日没を見られるロケーションでなかったり、疲れ果てて日没を見に行く余力がなかったり、日没後の行動が危険なエリアであったりと案外条件が揃いませんでした。今回は行動計画に余裕があったし、日没のために山頂に向かえるくらいの距離感だったので全て条件が揃っていた神回です。
宴の始まり
そして下山、宴の始まりです。きっと寒いだろうから鍋など煮込み料理がしたかったのですが大人数用のクッカーは持っていないし、今後も使う機会が少ないから買う気にもならず悩んでいたところ、スーパーでふと目に止まったほうとうセットです。
直火にかけられる上に食べ終わったら小さくできるので登山向きでした。注意点としては器としては弱いので変形しやすいことと…
熱ッッ穴空いてるwww
米粒で塞げッ!!
山梨ワインと七賢、絹の味です。まずはほうとうと鶏肉でビールと日本酒を食らって締めはステーキとジャーキー、チーズでワインです。絶景のサンセットの余韻もあって至福のひとときでした。しかし酔って寒さを感じなくなるはずが、飲めども飲めども兵糧攻めよろしく、冷えがじわじわと身体の芯に達しようとしてくるのが誤算でした。仕方がないので私のテントにTK氏を招待し、長辺テントの前室を堪能していただくことにしました。トークテーマは仕事、昔話、将来のことと色男TKの過去の遍歴などなど。
20時半頃になると気付けば周囲のテントは消灯していて我々の話し声が響いていたので、宴会を終えて本日最後のイベント星空撮影に繰り出します。
魅惑の遠い飲み屋
小屋前のテーブルを撮影場とすべく移動すると魅惑の遠い飲み屋の赤ちょうちん。寒さには勝てない屋外宴会の我々が夏の夜の蛾のごとく吸い寄せられるのを知ってか知らずか、壁一枚の向こう側の人々は軽装で優雅に酒を嗜んでいます。
青年小屋と星空。
Star Walk2によると青年小屋の真上に天の川が位置していました。肉眼ではくっきりはっきり見えるわけではないものの、ある程度の標高までくるとアプリに頼らずともうっすらと同定できます。
時刻は21時、ひとしきり撮影を終えて解散しました。明日は権現岳山頂で御来光を眺めて体力が余っていたら赤岳まで縦走して帰ってくる、なんて計画を立てました。いずれにせよ今日と同じく重い装備とは無縁で居られるので無敵です。明日朝の絶景を期待しながら、風がビュービュー吹き付けるテントで眠りにつきました。
2日目編↓