日本アルプス難所 大キレットアタック
剱岳に続く日本アルプス難所アタックシリーズ第2弾、大キレット縦走編です。
2回台風に阻まれた2年越し三度目の計画です。今回も台風が来ていましたが直前まで天気予報を見て、中日が晴れそうだったので決行しました。
行程
day1 上高地→槍沢ルート→殺生ヒュッテ(テント泊)
day2 殺生ヒュッテ→大キレット→涸沢(テント泊)
day3 涸沢→上高地
パーティは私と師匠、HG氏とKW氏。KW氏はどんな状況でも折れない屈強な精神力の持ち主であるが身体的にはあまり強くなく、高山病体質でもあるので安全確保のためday2は別行動、大キレットを避け槍ヶ岳登頂ののちに下山し横尾で合流します。
day2は師匠は風呂目当てに横尾山荘まで下り、私とHG氏は涸沢テント泊でday3に横尾で合流し帰路に着く計画でした。
day1 槍沢ルートで殺生ヒュッテへ
今回、最も行動時間が長く体力的にもキツイのはday1でした。
上高地から横尾までの無駄な水平移動ハイキングでウォーミングアップを済ませ、槍沢ルートで水俣乗越で表銀座ルートと合流、続いて東鎌尾根に取り付いて槍ヶ岳直下の殺生ヒュッテまで歩きます。
1200mアップなので標高差は大したことありませんが、トータル19kmのひたすら長い道のりになる上、水俣乗越までの17kmは槍ヶ岳が見られるポイントはあるものの基本的に眺望には恵まれない我慢の時間です。
水俣乗越から先はようやく稜線歩きになりますが、道が険しくアップダウンも増えるため嫌になるくらい辛いです。約14km地点の槍沢ロッジで1泊挟むのが一般的というのも納得です。
テント2泊ということで気をつけないと食料の重量にやられてしまいます。縦走装備は50Lザックに収め、2日以上の場合は山小屋の食事を利用します。今回は新しいアイテムとして太陽光で充電できるウルトラライトなランタン、carry the sunを初導入しました。外付けしているだけで充電できて、ソーラー電池駆動とは思えない明るさの優れものです。
上高地-河童橋
年に一度は訪れる上高地ですが何度見てもこの景色には震えます。神が降りる地、神降地。
毎回毎回ここ歩くの無駄だよなあ
登山鉄道とか通してくれないかな
楽しいの最初に来た時だけだったわ
手練の師匠をもってこうも言わせる上高地の水平10km歩きです。多少でも登っているなら良いですが平坦、つまり純粋な移動です。
梓川と焼岳。
過酷な槍沢ルート
前述のように横尾までの10kmはほぼ標高が変わらないので、後半9kmで1200mアップの計算になります。そして稜線、水俣乗越に出るまでの道のりはそこそこの勾配の樹林帯です。つまり眺望はありません。データを見返したら槍沢ロッジ以外で1枚も写真撮っていませんでした。
槍沢ロッジから槍ヶ岳を望みながら昼食を摂りました。
俺らあの向こうから来たわけ?
そうだよ
涙が出てくる
水俣乗越 表銀座縦走路と合流
果てしない我慢を超えてようやく水俣乗越です。来た道を背にして右を向いた状態の写真で、奥は表銀座縦走ルート、右が今しがた歩いてきた槍沢ルート、手前方向が槍ヶ岳方面の3分岐になっています。
アップダウン地獄の稜線歩き
山ヤならよだれが出てくる絶景稜線歩きの始まりです。
ちなみにさっきT字路って言ってたけど
北鎌尾根の分岐もあるからホントは十字路らしいよw
ごめん意味が分からない
どう見てもT字だったじゃん
※水俣乗越は槍ヶ岳に続くバリエーションルート、恐怖の北鎌尾根への入り口でもあるらしいですがどう考えても道は3方向しかありません。
樹林帯を抜けたことで安堵していると怒涛のアップダウン地獄が始まります。
いい加減にしろよ
テント捨ててって良い?
day1はここでビバークじゃなかった?
(こいつら…)
アップダウンがきついものの、ここまでの道と決定的に異なるのは眺望が良いところです。槍ヶ岳はもちろん、大キレットの先の北穂高岳が見えます。距離感としてはすぐそこ、という感じです。実際、直線距離的にはそれほど離れていません。
あと2kmで400アップだって
いいかげn(息切れ)
(辛いから)
(数字を出すな)
殺生ヒュッテに到着
殺生ヒュッテ直前は岩場のトラバース。死ぬほど足が滑ります。もう足が売り切れ。
殺生ヒュッテ-槍ヶ岳直下のテン場
山行開始後9時間、day1ゴールの殺生ヒュッテ。槍ヶ岳直下の贅沢な立地です。
山ナン
ヒュッテ前にテーブルがあって調理場として使うことができます。夕食は山おでん、山で揚げ物、など数々のスーパー山飯を作ってきた師匠による、山ナンです。
今日のご飯はナンです
な、ナンだってーーー!?
ちゃんと粉から作ります(無視)
HG君頼んだ
任せな(キリッ
似合いすぎwww
マジで山でナンができた
ナマステ
day2 大キレットへ突入
day2はいよいよ大キレットに踏み入れます。天気予報に反し槍ヶ岳も見えない霧の中での幕開けです。
テントの中から前室越しに山を見ることでしか得られない栄養がある。
初日に標高・距離を稼いだので、day2は行動時間は7時間程度で歩行距離も8kmと大幅に減ります。核心部の大キレット自体も距離は4kmほどしかありません。天気が良ければ槍ヶ岳も登頂する予定だったので槍ヶ岳山荘で30分待機しましたが、晴れる気配がなく断念します。槍ヶ岳山荘〜南岳くらいまではガスの中を進む形になりました。
では我々は大キレットへ
夕刻までに戻らなければ置いていけ
妻にお前の夫は立派に散ったと伝えてくれ
承知した
いよいよ大キレットです。まるで龍の背のような稜線です。
大キレットに差し掛かるところで本日初めて晴れ始めます。師匠もHG氏もメンバー屈指の晴れ男として知られています。
表銀座の稜線
右のとんがりが常念岳で、正面に一望しているのは表銀座の稜線です。
遠目にも大キレット内の登山道が確認できます。ここから見て緑がある範囲は思ったほど危険箇所もなくて怖い思いをせず済みました。
見て、人がいるよ
こんな天気予報でよく来るわ
山やるやつってやっぱ頭おかしいよな
左右で様相が異なる稜線
大キレットの稜線は写真左の長野側と右の飛騨側で様相が異なります。長野側は比較的穏やかで飛騨側は針地獄のような岩稜帯です。難所が飛騨泣きと呼ばれるのは飛騨側に落ちると助からないと言われているからで、この写真を見れば納得。花山薫くらいじゃないと死ぬでしょうな。
長谷川ピーク
安全な岩場歩きには多少自信がある私なので、大キレットは剱岳のカニのヨコバイがずっと続くくらいに構えていたおかげで、自分的には余力を残して進んでいくことができました。そんな中、今回のルート上で唯一死が真隣に迫ったのが、ここ長谷川ピークでした。
あの師匠、この草木の下に地面などは…
ないよ
落ちたら終わりだね
ですよね〜
鎖使ってね
待って鎖ゴツすぎwww
北穂側に近づくにつれてさらに険しい岩稜帯になってきます。
北穂高岳直下、A沢のコルから垂直登攀でラストスパートです。
あっ
もう無理だ
先に行ってくれ
惜しい男をなくした
悔しいけど振り返らないっ
今まで登った山の中で一番好きな景色がこの北穂高岳側から見た大キレットの稜線です。初めて見た時は本当に”龍の背やんけ”と思いました。
大キレットゴール 北穂高岳
ペプシうめえぇぇぇぇぇ
コーラじゃなくてペプシなのがポイント高い
(オタクってそういう面倒なこと言いがち)
ペプシを飲みながら、初めてのテント泊で涸沢から奥穂高→北穂高岳を縦走した2年前を思い出しています。北穂高岳からの景色に感動した、まだ大キレットという名前も知らかなった頃を鮮明に思い出します。あの頃はこんなヤバそうな道はさすがに歩けねえと思っていました。
この日は曇ってしまいましたがここからの景色が今まで登ってきた山で一番好きです。
2年前に撮影した北穂高岳山頂から大キレットと槍ヶ岳です。ご査収ください。
涸沢カール
大キレット走破後は下山するのみです。
さあ後は横尾まで一気に降りるぞ
俺らは涸沢テント泊を満喫していくよ
あの、師匠
横尾ってまだ空きあるかな
おん?
あるみたいだよスマホポチー
1名追加でお願いします!!!!!
直前で裏切りに遭いましたが、私は年に一度くらいしかできないテント泊を満喫すべく涸沢でテントを張ることにしました。
下るだけと言っても北穂高岳から涸沢までの下りは相当つらいです。まず傾斜がきついため常にかなりの足のグリップが必要なのと、木々をかき分けて進まなければならない場所がいくつかあったり、階段の段差が大きいこと、距離が長いことなど多くの要因があります。
涸沢ヒュッテでテント泊
涸沢ヒュッテ。思えばテント泊に興味を持ったのは登山雑誌で見た涸沢の写真がきっかけでした。
涸沢名物のおでんだがモグモグ
何か特別な具材があるわけではないんだよなモグモグ
ただ山でおでんを出しているだけで名物になっているがモグモグ
本来の名物とはその場所でしか食べられないモグモグ
その場所ならではのものを指すのではないだろうかモグモグ
ビールを飲み干したくらいで雨が降ってきてしまったので一時撤退です。夏山の夜は晴れることを知っているのでカメラの準備をして早々に寝ます。
そして迎えた深夜です。多少ガスってはいましたが十分星が見えました。おなじみiPhoneの有料アプリstar walk2で天の川の方向を確認して星景撮影をします。写真右から11時方向に伸びるのが天の川です。ギリギリ肉眼でもラインが見えるくらいです。
day3 土砂降りの上高地歩き
迎えた最終日の朝はテントを叩きつける雨の音に叩き起こされました。予報通りですが山中でえぐい雨に降られると本能的な危機感を感じます。予定より早く横尾まで降りて山荘でぬくぬく過ごしあまつさえ入浴まで経験している甘ったれの3人と合流します。
横尾着いたぞ
早いね(笑)
びしょ濡れじゃんw
もう少しのんびりしようぜw
待ったお前が煽るのだけは許さん
あと間もなく貴様らもこうなる運命だからな?(ずぶ濡れ
やはり豪雨の中テントで過ごした人間と山小屋で過ごした人間との間には危機感に決定的な差が生まれます。ほぼ雨に打たれながら山から降りてきた山賊が民家を襲おうとしている構図です。
横尾を発つ頃にはさらに雨脚が強まり、レインウェアとザックカバーをフル装備して10kmの道のりを歩き始めます。ここまで雨が降ると防水も透湿性もクソもねえなというのが感想です。
雨に打たれながら河童橋まで戻り、長い山行を終えました。レインウェアを脱いでもびしょ濡れでした。結局優れた透湿性もサウナで鍛えた私の発汗性能には勝てないようです。
願わくば上高地に登山鉄道を…!
おしまい。