山と自転車

登山や自転車をはじめとした多趣味ブログ

【難所シリーズ①】剱岳1泊2日小屋泊登山2019.7

社会人1年目、大学卒業後最初のグループ登山で剱岳を何とか登頂してきました。何とか、というのは台風が接近し小雨が降って眺望ゼロの中での登頂だったからです。本当に死ぬかと思いました。

パーティは師匠、私とHG氏のイツメン3名。台風の進路が微妙で晴れるか荒天で断念か際どいところ。登頂するかは2日目の予報次第、現地判断ということで剱岳に最も近い山小屋、剣山荘に泊まっての1泊2日登山をしました。

7/27 立山駅→室堂→剣山荘1泊

7/28 剣山荘→剱岳→剣山荘→室堂→立山駅→帰路へ

剱岳 小屋泊登山開始

立山駅

6:56 まずは立山駅。富山も立山も室堂も全て初上陸です。

ケーブルカーとバスを乗り継いで室堂に向かいます。並ぶの込みで所要時間は約1時間半。

夏休みシーズンということもありバスは長蛇の列でした。

室堂 日本離れした景色

8:20 室堂初上陸!なんていうか見たことのない類の景色で、日本離れしている感じです。麓は曇っていたけどこの青空であります。

集合写真を撮るための列。個人的には並んでまで定番の場所で写真を撮るよりも、思い出深くなったポイントとかで撮る方が好きです。

視界がワイド。イメージ通りの日本アルプスの光景が広がります。

やたら青いのはミクリガ池。

真夏にこれだけ雪が残っているのはさすが北アルプス。そしてまだ登山の要素はほぼゼロで、室堂に降り立ってすぐにこんな景色が見られるのがすごいところ。

向こうに見えるのはもしかしたら日本海かもしれません。

今日は雷鳥沢を超えて剱岳手前の剣山荘に宿泊予定なので、この写真の山を超えて向こう側までいかなければなりません。まずスタート地点から雷鳥沢まで下ります。

雷鳥沢から川を渡ると

雷鳥坂と呼ばれる登りが始まり、ようやく登山らしくなってきます。ここから別山乗越まではひたすら登ります。

短い距離ですが雪渓歩き。師匠がアイゼン不要というのでストックのみで臨みます。当然年や時期によりアイゼン必須な可能性もあるのでこれは事前の情報収集が重要です(全て師匠任せ)。

ある程度高度を稼ぐと、今度は雷鳥沢をスタートの反対側から見下ろすことに。右端の赤い屋根は室堂側の山荘。

向かって左は大日岳。もちろん初耳ですが師匠いわく立山に負けじ劣らずな名山なのだとか。

別山乗越

雷鳥沢キャンプ場から1時間40分

雷鳥坂を登り切ると別山乗越に出てきます。ここは剱御前小舎があって雷鳥沢方面にも剱岳方面にも眺望が良い休憩ポイントです。

針の山、剱岳。この日は次第に雲に覆われたのでこの別山乗越に着いて間もなく剱岳は見えなくなってしまいました。

昼食担当を頼まれたので、ヤマメシの基本ともいえるベーシックなとんこつラーメンにしました。手抜きと思われないよう具をしっかり用意するのがポイント。

別山乗越から剱岳までは水平移動と少しの登り、そして大半が下りです。途中何度も雪渓の上を渡ることになるので、斜度がない場所がほとんどだったとはいえ緊張が続きます。

雲に隠れる剱岳。明日会えるかなと思っていましたが、結果的には今回の山行では二度と剱岳の姿を拝むことはありませんでした。

剣山荘到着

剱御前小舎から歩くこと1時間、本日のゴール剣山荘に到着。霧が発生して既に視界はこの通り真っ白。

剣山荘は最も剱岳に近い山小屋で、こんな過酷な環境にありながらなんとシャワーが使えます(13時〜17時)。

そして山荘で天気予報のニュースを聞きながら明日の行程を考えます。もし荒天が確定するのならば剱岳登頂はあまりに危険なので引き返す放心ですが、天気予報を聞いている限り絶望的で少なくとも晴れることは絶対になさそうです。さらに時間が経つほどに天気が荒れていく、そんな絶望的な予報です。

最終判断は当日朝。またまた天気予報を聞いているとやはり晴れることはなく午後になれば雨が降るでしょうという最悪の予報は変わりません。

さすがに行けないね

のんびり帰るかあ

よし、行くよ

正気か

剱岳 登頂開始

かくして始まってしまった眺望のない剱岳登山。師匠のGOの根拠は「剱岳自体は往復でもそれほど時間はかからないため天気が荒れる前に戻ってこられる可能性が高い」ことでした。この辺りの読みはもうベテランに任せるしかないので覚悟を決めて進むことにします。

5:17 剣山荘を出発。

もう何もなさすぎて写真は要所要所で少ししか撮っていませんが、これは最初のピークの前剱です。剣山荘から1時間ほどで到着。

前剱の門 

そしてここが最初の難所「前剱の門」と呼ばれる5番目の鎖場です。私は笑った。恐怖で笑った。

何が怖いかって解説するとまず手前の金属の橋です。これが微妙に湿っていて滑る上、よく見ていただければ分かりますが若干左に傾いています。もちろん橋の左右はどこまであるのか分からぬ奈落の底です。逆に高度感があまり感じられなかったので、もしかしたら視界がなくて良かったのかもしれませんとか言うレベル。橋を渡ると岩壁のトラバース。ここは足元も手元もしっかりしているので見た目のインパクトよりは楽に渡れます。

雪渓のいわば断面図に相当するところの真横を通り過ぎます。成人の身長の倍以上の厚みがあります。

恐怖のカニのタテバイ

そしてここが最も有名だと思われる難所の「カニのタテバイ」です。

ここはもう完全なる垂直登攀で、流石に鎖を使わないとどうしようもないのはもちろん、次の手、次の足をかけられそうな場所がビミョーに遠いのが憎たらしい。しかも岩が濡れてて滑るし。いよいよ死ぬかもしれないことを意識し始めました。

無理無理無理

帰って良いですか?

大丈夫、行けるよ

カニのタテバイを抜けると多少は道が落ち着いてきて普通のガレ場になってきます。とはいえ限りなく雨に近い霧雨になってきていたので心理的には恐怖が迫ります。

剱岳山頂

7:45 剣山荘より2時間半、何とか剱岳山頂2999mに到達しました。しかし見ての通り眺望は全くありません。あんなに怖い思いをしてたどり着きましたが、わずか15分の滞在で下山開始します。

カニのヨコバイ

剱岳の下山路は方向的には来た道と同じですが部分的に道が変わるので、例えばカニのタテバイを下ることはありません。ただし個人的には一番難易度と恐怖度が高かったのが「カニのヨコバイ」でした。恐怖心のあまり写真を撮ろうという発想さえ浮かばなかったので文章でなんとかヤバさを伝えます。

カニのヨコバイは横這い、というくらいなので縦に降りるのではなく斜めに降りるような道(?)で、これまたほぼ垂直に立った岩壁をトラバースしつつ進行方向斜め下に向かって下っていきます。まず眼下は前剱の門と同じく奈落の底になっています。そしてカニのタテバイに比べて手足をかける場所がヤバいくらいシビアです。

足場がないよ!笑

わろてる場合か

なんだろう、視界がずっとぼやけてる

恐怖で涙が勝手に流れるという初めての経験をしました。師匠の足先に目を凝らすと足がかけられそうな窪みがあるにはありますが全然届きそうには見えません。先に足を接地してから降りることはできないようです。

想像してみてください。あなたは奈落の底からそびえ立つ岩壁に取り付いている状態で、前に進むには奈落の底に目を向け、そこに足場があると信じて1歩を踏み出さなければなりません。

後方から私とHG氏で誘導し、何とか師匠がクリア。続くは私。

件のポイントで3点保持を保ちながら懸命に足を伸ばしますが、どんなに足を伸ばしても足場がどこにもありません。比喩でなく本当にありません。

師匠に足の位置を誘導してもらい「そこで降りれば足場がある」とGOサインが出るも、こちらとしては足場のない恐怖の岩壁なので進んで良いとは思えません。というか普通なら絶対進んじゃいけないやつ。

ここはもう信頼関係。エイヤと踏み出すとようやく足先が接地しました。感覚的には足先からその足場までは10cm程度離れていたようです。たかが10cmはされど10cm。

 

カニのヨコバイさえ超えれば後は基本的に来た道を戻るのみなので、油断して前剱の門で滑落しなければ剣山荘に戻って終了です。剱岳山頂から剣山荘へは2時間で下山。剣山荘にてカレーやらラーメンやらを注文して昼食をとり、11:10室堂目指して出発しました。

午後になると雨が振り始めると予報が出ていた通り、厚みを増したグレーの雲に覆われ始めました。

剣山荘より2時間半、雷鳥坂を駆け下りるようにしてようやく戻ってきました。途中「みくりが池温泉」に立ち寄ります。まさか外界に降りる前に風呂に入れるなんて。

そして15:05室堂到着。あとはバスとケーブルカーで戻るだけのハズが、外界は土砂降りの雷雨に見舞われているようで、バスが一時運行見合わせになっていました。バスターミナルで1時間弱足止めをくらいます。

下山

スタート地点、立山駅まで戻ってきました。下界は晴れ渡っていますがスコールに襲われた後があります。

かくして人生2回目の北アルプス、これまでで最大難度の剱岳登山を無事に終えました。眺望はありませんでしたが、すごいところに行ったという実感が残っているのはやはりこれまで経験がないような恐怖を味わったからだと思います。師匠もHG氏もいつか晴れた剱岳にリベンジ、と言っていたので合わせましたが、またあんなところに行くのかよと思ったのが正直な気持ちです。

 

〜Fin〜