先日の阿蘇の自転車旅でとあるトラブルに見舞われ、結果的に予定していた行程を大幅に変更する羽目になりました。Twitter(現X)にて騒いでいたら有識者の方々から様々な有益な情報をいただいたので、自分で調べた情報と実際の経験談を交えて記録として残しておこうと思い記事にしました。情報提供くださった方々、本当にありがとうございました。
突然の銃声
熊本空港に降り立って阿蘇パノラマラインを南から北に抜け、道の駅阿蘇で休憩したのち天候が回復したため阿蘇随一の展望スポットである大観峰へ、片道15km, 400mアップのヒルクライムを終えたところで事件が生じました。
この日はトータル1700m以上のヒルクライムを経て脚はボロボロ、しかしあとは麓の宿まで下るだけ、そんな折。突然後方からパァンと銃声が鳴り響きました。みんなこっちを見ていました。
まさかのサイドカット、というかもはやタイヤが古かったんじゃないかという裂け方をして山の中で強制終了になりました…せっかくヒルクライムの苦行を終えたのに…
— 上社アイ@山と自転車の人 (@kamiyashiro_i) September 21, 2024
普通はパンクするにしてもじわじわと抜ける、鋭利なものを踏んだとしてもその場でプシューと抜ける、リム打ちなら段差を超えた瞬間に急速に抜ける、はずなので特に誘因なく突然銃声が鳴った時点で嫌な予感がしました。
過去の経験から、まだ絶望を知らなかった
サイドカットのパンクは過去にも、奇しくも1年前の同時期の利尻島・礼文島旅でもブロンプトンで経験していました。
この時はタイヤの裏から絆創膏を貼ってそのままチューブを入れ、空気圧を普段より大幅に下げることで結果的にその後パンク無しで約200kmの走行が可能だったので、まだこの時点では絶望してはいませんでした。
絶望のサイドカット
大観峰で↑のときと同様に絆創膏を貼って修理に取り掛かりました。Tyrell FSXは普段7.0barの高圧だったので、とりあえず3.8barで膨らませました。当然タイヤの隙間からチューブが突出していましたが、前回の経験があったので気には留めませんでした。ちなみに旅先なのに正確な空気圧が分かるのはCYCPLUS AS2 PROを使っているからです。
再びの、銃声
「とりあえず段差とタイヤのサイドをぶつけないよう気をつけて走ろう」そう思いながらペダルを漕ぐとパァァン。
わずか3秒で再び後方から聴いたばかりの銃声が鳴り響きました。そう、再びのチューブ破裂型パンクです。どう考えてもサイドカットによるパンクだった上に新品のチューブはもう残機0なので、この時点で初めて置かれた状況が正確に理解でき、絶望が襲ってきました。
「市街地から15km離れた山中、行動不能」
「時刻は大観峰ゲートが閉まる17:30を回っていて、数人の観光客が残るのみ」
「観光用のバスは当然全て終了している」
「空はにわかに暗くなり始め、気温が急激に下がり雨が振り始めた」
「久々の遠征旅が初日にして強制終了した」
雨予報に屈せず高い交通費をかけてここまで来たのに、こんなのってないよ…あんまりだよ…
サイドカットは直せない
結果的には宿泊予定の宿に連絡し、配車してくれそうな地元のタクシー会社を教えてもらってなんとか難を逃れることができました(予定外出費5000円…)。そして改めてタイヤを見てました。
隙間から出ているのは絆創膏の綿の部分です。
よく見ると状況としてはサイドカットと同じですが、サイドウォールとビードの境目がビードに沿って裂けているのが分かります。左の方は破れてはいないものの、ケーシングが見えている状態です。
…これ、タイヤの経年劣化で起こるパターンじゃね?
というのも先に書いたブロンプトンのパンク時のタイヤと同じ状況だったからです。ブロンプトンは4年近く使っていたタイヤなので私のメンテナンス不足に帰すのですが、こちらは先月納車したばかりの新車ほやほやのTyrell、私は1ヶ月で5000km走るようなイカれた豪脚の持ち主ではないのでせいぜい300km走ったかどうかくらいです。
初期不良品は一定の確率で生じるので仕方ないことではありますが、このときばかりは一瞬恨んでしまいました。
サイドカットした!応急処置はどうする!?
さてここからが本題です。旅先でサイドカットした場合どうするか?どうするか、というのはどう応急処置をするのか、そしてそれでどの程度走行可能になるのか。ネットで調べつつTwitter(現X)にて有識者の方々に意見を仰ぎました。
さてサイドカットの応急処置…絆創膏だとチューブが膨れて無理なのでどうしたもんかな。タイヤの切れ端がベストだけど旅先でそんなもん手に入るわけないし、ブルベ界隈で聞くクリアファイルか…?
— 上社アイ@山と自転車の人 (@kamiyashiro_i) September 21, 2024
経験者の方にお聞きします。サイドカットパンクした際、何らかの応急処置で130km
— 上社アイ@山と自転車の人 (@kamiyashiro_i) September 21, 2024
めちゃくちゃたくさんのご意見・経験談をいただき、ワンチャンまだ走れる!?という気持ちになってきました。絶望の阿蘇初日、大変励まされました。いただいた・調べた情報を総括すると以下のように纏められました。
・サイドカットするとチューブが突出しすぐパンクするのでそのままパンク修理しても意味がない
・基本的にはサイドカットしたタイヤは修理不能なのでできることは応急処置となる
・応急処置は「タイヤの内側ないし外側から何らかの方法でチューブが突出するのを抑えること」
・とにかく伸びない素材であれば応急処置に使える可能性がある
①お札
お札で4Barくらいまでは持つみたいですよ
— さっさん@自転車好き (@saki220529) September 21, 2024
強度はありそうとはいえ紙…と正直半信半疑なところですが、意外にもメジャーな方法の1つのようです。確かに4つ折りくらいにしたら相当強そう。旅でなくとも1枚くらいは常備しているものなので私のように物資のない場所で詰んだ時に覚えておくと九死に一生を得るかもしれません。
お札の種類に関して言及している人はいなさそうなので、五千円でも一万円でもきっと大丈夫。比較調査したら面白そうですが、ニッチすぎる上にパンク時にはお札が裂けます。
②クリアファイル
これはブルベ界隈ではよく知られたテクニックのようです。個人的にはクリアファイルは思いっきり引っ張ると伸びる素材な気がしますが、チューブの膨隆くらいの緩徐な力では大丈夫なのでしょう。切れ端が鋭利で新たなパンクの原因になりうるため、角を落とし養生する必要があるのが欠点と言えます。
③お菓子のプラ包装袋
しまなみ海道、GIANTストア今治店のブログで紹介されていた方法。伸びない素材な上に行動食として携行している可能性が高く、①のお札と同様現地で予想外に生じた場合に頼りになりそうです。
④タイヤブート
タイヤブートで対策。70km走って、ようやく見つけたスポーツ自転車店に飛び込みました。「やばい状態でしたよ」と店員さん。なので、130kmはなぁ…と思いました。
— などかず (@nadokazu) September 21, 2024
200km走ってない新品タイヤでサイドカット。タイヤブートで応急処置も、明らかにヤヴァそうな膨らみ方して流石に切り上げました。輪行&ショップまでの自走は耐えました。
— 腐ったバナナ (@k10banana) September 21, 2024
カット量が少なければ行けるかもですが経験から言えば自分は切り上げます https://t.co/xPN0ZPvdAi
パークツールのタイヤ補修用パッチ。今回の件で初めて存在を知りましたがやはりブルベ界隈、ロングライダー達の間では常識となっている装備のようです。私は同じくパークツールのチューブ補修パッチ「スーパーパッチ」を愛用していて、かなり信頼できる耐久性があるので事前に備えておくのであればこれが大本命になりそうです。
⑤その他
サイドカットでは無いのですが、駐輪してる間にタイヤをナイフで切られてた事があって、走り出してしばらくしてパンっ!と。
— トラップ (@x68trap) September 21, 2024
その時はガムテープぐるぐる巻きにして20〜30km毎に巻き直し、何とか80km先の自転車屋までたどり着きました💦
130kmは無理だと思います。
— 京@Limited (@KYoshi_msfy) September 21, 2024
葉っぱは20kmぐらいは耐えれましたよ笑
外から失礼。130km/600kmでやらかして、タイヤブートを貼り付け、その後コンビニでゼリー状瞬間接着剤買って、外側に付けて補修。残り470kmを走った事があります。タイヤブートはキネシオテープでも代用効くと聞いた事が有りますが、百均小分けゼリー状瞬間接着剤をツールケースに入れると良いですよ
— クマ@次戦!内緒! (@BP5CRUNNER) September 21, 2024
フォロワーさんからいただいた経験談より紹介。そのへんに落ちていた葉っぱ(20km)、ホイールごとガムテープでぐるぐる巻き、20-30kmごとに巻き直し(80km)、タイヤブート+瞬間接着剤(470km)。
個人的にガムテープぐるぐる巻き作戦はシンプルな方法ですがガムテープも伸びにくい上にぐるぐる巻きにすれば強度が稼げるので良さそうに思えました。またタイヤブートは70-80kmいけた、という談が多かったですが瞬間接着剤と合わせて470kmというのは驚異的です。
⑥番外編 廃タイヤのサイドウォール
これは現地での応急処置ではなくサイドカットタイヤの修理に関する話なので番外編としました。よく拝読しているブログ「ぼっちと孤高の分かれ道」より廃タイヤのサイドウォールを使う修理方法です。
この記事によれば修理後は遜色なく使用できているようで、非常に有用な知見です。また前もって用意しておけば応急処置用品として携行することもできそう。今回のタイヤを使ってパッチを作っておこうと思いました。
プラ包装袋で応急処置してみた
旅先ということで上記の中で現実的だったのは①のお札、③プラ包装袋、次点で②のクリアファイルでした。この時点で一番なるほど、と感心したのが③だったのとちょうどグミの袋を持っていたのでこれで応急処置してみました。
まだ開けてなかったのでこのために封を切りました。
厚みが出過ぎるとそれはそれでチューブを変形させそうなので折らずに、宿で借りた紙テープを使って広めに固定しました。
タイヤを嵌める時に剥がしてしまわないよう注意しながら、恐る恐る3barで膨らませてみました。
フラップ状になったサイドウォールがめくれて写真では膨らんで見えますが、ビフォーアフターは劇的な違いがありました。釣り上げた深海魚から飛び出る浮袋から蚊に刺されくらいの膨らみまで。
補修タイヤを信じるのか、信じられないのか!?
補修翌日は天候の関係で走行距離0だったので、丸一日3.0barで保管したのち最終日のライドを迎えました。この応急処置で予定していた100km超のルートを走れるかどうか、これが今旅最大の検討事項でした。
ルートの詳細は旅の記事に譲りますが、フォロワーさんの意見も踏まえ、再度どこかで行動不能になる前提でルート変更しました。リスクヘッジってやつです。
具体的には、行動不能時のリカバリーが困難な山道の走行は諦め、大分市街から大分空港までの市街地のみを走るプランにしました。
そして32km地点、その時は来た
大分中心地から海沿いの快走路、国道10号を普段のフィーリングと遜色なく快適に走ること20km超「全然行ける」「やまなみハイウェイ、惜しいことをしたかも」なんて考えていました。そして道中、べっぷ地獄めぐりに寄ろうと坂を登っている時でした
パァン…
空気圧を低くしていた分やや控えめな銃声でした。例えるならサイレンサー付きワルサーPPK/Sのような…
また後輪がパンクしたわけですが、パッチにしていたグミの袋が一部破れていました。つまり、コーラアップの袋では3.0bar32kmが限界でした。
もう心が折れた…というよりはやはりな、という受容の気持ちになっていて、この時点でバス輪行に切り替えることにしました。別府駅→大分空港までは本数も停留所も多めのバスが出ているのを事前に知っていたので、予定通りのリカバリーです。
とはいえパンク地点から別府駅まで4kmほど離れていたため、なんとかそのくらいは移動させてくれともう一度同じことをしました。今度は2回折って4枚重ねにしました。
補修後。ちょうどコーラグミのパッケージの赤黒いところが顔を覗かせており、まるで地獄の釜の蓋が開いたようでした。べっぷ地獄めぐりに追加されたい。
プラ包装袋は本当に応急処置にしかならない
プラ包装袋、グミの袋は容易には伸びないイメージがあり採用した方法でしたが、結果的にはわずかな距離しか保ちませんでした。単純計算すると「1枚で32kmなら2回折って4重にすれば128km行ける」はずですが、別府での2度目の応急処置後、自宅に帰って見てみるとまあダメそうな見た目でした。
旅先でサイドカットしたらどうする!?まとめ
結論としてはサイドカットし得るという発想を持ってタイヤブートなりクリアファイルパッチなり廃タイヤパッチを携行しましょう。これが正義です。サイドカットは新品のタイヤでも起こり得るし、一度起これば完全に行動不能になってしまいます。(思えば昨年のブロンプトンのサイドカットが絆創膏1枚で200km保ったのは本当に奇跡でした。)
ただし、私のようにその装備がなく旅先で困って今まさに検索しているあなた!その状況で持っている可能性があるのは紹介した中ではお札とプラ包装袋でしょう。その優劣は分かりませんが、少なくとも折っていないプラ包装袋が32kmと丸一日の保管に耐えたことを踏まえると「2回以上折ってプラ包装袋もしくはお札を使う、あるいは両方重ねて疑似ケーシングとする」あたりで少なくとも30kmほどは何とかなると思います。あなたがモッている人なら、80km, あるいはそれ以上も可能かもしれません。
窮地に陥った誰かの役に立ったら幸いです。改めて情報提供いただいた方々に感謝を申し上げます。