剱岳、大キレット、ジャンダルムに続き我々登山隊の最後の挑戦として遂に北鎌尾根に挑みました。この記事は計画段階〜初日のヒュッテ西岳泊までの内容で北鎌尾根に足を踏み入れるのは次の記事になります。
北鎌尾根アタック計画編
最後の難所攻略 - 師匠、43歳の壁に挑む -
最近話題の43歳の壁ってあるじゃない
高名な登山家が…ってやつね
もしかして…
そう、僕は今年43歳なんですよ
今が登山技術のピーク、挑戦できる最後のタイミングだと思ってるんだ
チーム編成は私と師匠、HG氏の3名。これまでの難所攻略シリーズを共にクリアしてきた仲間達です。大学時代の同期ですが師匠は社会人受験者なので私より一回り年齢が上なのです。危険箇所にも果敢に挑んできた我々ですが、この手の場所には今回がおそらく最後の挑戦になると思います。
我々の普段の歩行ペースはヤマレコにて標準ペースを1.0とした時に0.7~0.8くらい、北アルプスに関してはほぼ標準CT通り〜やや早いくらいのペースです。ちなみに便宜上私が計画したような口調になっていますが、私はほぼ関与していません。師匠が一晩でやってくれました。
行程と概要
日程:2024年8月10日(土)〜8月12日(月)
行程:
day0 山梨(韮崎)前泊
day1 上高地スタート 水俣乗越を経てヒュッテ西岳(小屋泊)
距離17.8km 獲得標高1292m 行動時間9:17(休憩2:19)
day2 ヒュッテ西岳→水俣乗越→北鎌沢出合→北鎌尾根→槍ヶ岳山荘(小屋泊)
距離7.5km 獲得標高1539m 行動時間13:21(休憩1:04)
day3 槍ヶ岳山荘→上高地
距離19.2km 獲得標高50m 行動時間6:35(休憩0:13)
上高地側からの場合「初日に上高地から水俣乗越を越えて北鎌沢出合まで下って1泊、2日目に北鎌尾根を抜けて槍ヶ岳山荘もしくは殺生ヒュッテまで下る」というのが北鎌尾根の標準的な攻略ルートですが、我々はテント泊装備を削るため山小屋泊としました。核心部の2日目の行程が伸びるというリスクがありますが、ルートの特性的に軽量化のメリットは非常に大きいです。おそらく現時点ではヒュッテ西岳を利用する北鎌尾根山行記録はほかに存在しないので、テントを担ぎたくない方は参考にしてみてください。
ルートについて
北鎌尾根に挑む場合は大きく2パターン。上高地側から入山するルートと、表銀座縦走路方面から貧乏沢を経て入山するルートがあります。
上高地から槍沢の途中までの移動距離が非常にネックなので上高地がスタート&ゴールになるのは避けたく、理想は表銀座縦走路から入って帰りは上高地に抜けるルートでしたが、登山口間が遠いので現実的ではありませんでした。これをするには「先に車2台でゴール側に行って駐車→全員でスタート側へ移動する」必要があり、入山前と下山後にかなりの時間と手間が生じます。
よって、地獄の水平移動往復2セットというネガを許容してでも登山口と下山口を揃える今回のルートになりました。
軽量化のため小屋泊を利用
①ヒュッテ西岳 行動時間が伸びてしまう
我々は前述の通り軽量化を図るため全員初体験となる山小屋泊縦走で計画しました。軽量化される反面、初日の水俣乗越→ヒュッテ西岳(CT1:30)と2日目のヒュッテ西岳→水俣乗越(CT1:10)が余計に追加されてしまいます。
特にただでさえ長い2日目にこの移動が加わることが最大の懸念点でしたが、結果的にはヒュッテ西岳→水俣乗越は下りで1時間もかからなかったため、これは行動開始を早めることで十分カバー可能と考えます。
②槍ヶ岳山荘 予約争奪戦がネック
2日目は一気に北鎌尾根を抜けて槍ヶ岳山荘に泊まる計画でしたが、WEB予約開始日、開始時刻ぴったりに3人それぞれで挑んだものの全敗しました。大多数を占めるであろう中高年のデジタル適応力を侮っていました。オタクの友達に聞いたところガチる時は1文字入力すれば住所や名前が全て一瞬で打てるように前もって辞書登録しておくのだそうです。
テント泊を余儀なくされるところでしたが、毎日WEBサイトをパトロールしてくれていた師匠のおかげで最終的には3人分確保することができました。やはり直前になるとそれなりにキャンセルが出るので最後まで諦めなければ道は開けます。
北鎌尾根アタック山行編 day0 波乱の山梨前泊
前泊編は備忘録的な記事なのでぜひ読み飛ばしてください。
地震により合流不能の危機
私は東京、師匠は千葉県、そしてHG氏は岡山県からの参戦です。松本までは時間的に厳しいということで韮崎前泊になったのですが…
仕事が伸びて23時品川着予定です
波乱の幕開け(午後休くらい取ると思ってた)
(午後休くらい取ると思ってた)
この日8月9日(金)は20時頃に神奈川県で最大震度5弱の地震が発生し、新幹線が大幅に遅れ、中央道・東名高速が3時間近く通行止めになるという予期できぬアクシデントが生じました。
新幹線、神戸で止まった
高速も通行止めになってる
俺を見捨てて先に行けパターン?
ちなみに私は理解あり過ぎる上司達のおかげでほぼ定時上がりに成功したので地震発生時点ですでに山梨入りしていました。
chAho Hostel Nirasaki/Outdoor Base
前泊地は韮崎駅から徒歩圏内に位置する登山者向けゲストハウスです。
アクセスも立地も雰囲気も良く、特に南アルプス登山の前泊地としては非常に使い勝手が良さそうです。4500円という金額も良心的。
そして師匠達はというと、何とか新幹線が動き出し高速も開通しAM3:30に合流することができました。そして出発は4:30とのことなので、上高地までの移動で睡眠を確保してもらうことにしました。
HG君が関東に辿り着けるかどうかだけがネックだった
高速が通行止めのままなら新横浜合流にして江の島から西湘バイパスを経て
小田原、御殿場経由で山梨入りするつもりだったよ
私とHG氏がLINEでどうしよう詰んだぴえんぴえんと騒いでる中、師匠は淡々と代替ルートを考案していました。毎度のことながら我々のリーダー、不可能を可能にする男。
day1 上高地からヒュッテ西岳へ
そんなこんなで何とか7:30頃、さわんど駐車場にたどり着きました。彼等の睡眠時間は1時間+車内の1~1.5時間程度。過酷なスタートになりました。
師匠、HG氏は日帰りで使ってる40-45Lのいつものザック。私は久々のテラフレーム50です。思えば全然リッジ30でも行けましたが、冒険的登山にはミステリーランチを背負いたいという性能度外視の部分がありました。装備編については別でまとめます。
8:18 上高地
-いつもの横尾までの水平移動-
まずは横尾までの約10km、来るたびにうんざりする水平移動です。しかも今回はいつも歩く側が土砂崩れで通行止めになっていて、河童橋を渡って明神まで反対岸を歩かなければならず、2kmほど水増しされました。
見慣れたアングルで焼岳。こいつもいつ登れなくなるか分からないから早く登っておかないといけません。
11:16 横尾 昼休憩
ここまで12km, 3時間ほど。水平移動なので巻くことも伸びることもない無駄な時間です。
-横尾から槍沢ルートへ-
14:04 ババ平
横尾から1時間40分ほど。一旦は最後の補給箇所となります。
14:35 槍沢大曲り
槍沢を上がって槍ヶ岳山荘に出るルートと、水俣乗越方面との分岐点です。ここからが初日の核心部。
なぜか水俣乗越方面の看板が割れてなくなっていました。熊なのか人為的なものなのか。
大曲から水俣乗越までのこの登り、3年前の大キレット以来です。木々の中を進むので直射日光が避けられるのが唯一の救い。
15:44 水俣乗越
大曲から1時間10分ほどでこの日最大の難所を登りきりました。水俣乗越は大曲方面、東鎌尾根方面、ヒュッテ西岳方面のT字路になっている…と見せかけて十字路になっている分岐点です。
まさかこの道を進むためにまた来ることがあろうとは…北鎌尾根ナニソレ時代のやりとりを懐かしく思います。
さてラストスパート、本日のゴールヒュッテ西岳を目指します。この時点で時刻は15:57。一般論的にはすでに山小屋に着いていなければならない時間ですが、日没まではまだまだ時間たっぷりです。17時到着を目標にします。
水俣乗越→ヒュッテ西岳、距離自体は大したことがありませんがそれなりに登る必要があります。
改めて1時間睡眠でこんな激しい行程をこなすこの人たち、狂ってますね。
17:04 ヒュッテ西岳
なんとか目標にしていた17時に到着。チェックインを済ませつつコーラを買って乾杯しました。この時のコーラを私達は生涯忘れることはないでしょう。
山小屋泊自体3回目なのと、山小屋でのご飯を食べるのは初めてだったので知りませんでしたが、ごはんおかわり自由なのが標準的な仕様らしいです。このときほど白米がありがたかったことはありません。おかずの汁成分まで利用して大盛り3杯を食べてようやく正常な意識状態に戻りました。
-星景撮影 ヒュッテ西岳より-
さすがにみんなヘロヘロで消灯の20時前に眠ってしまいましたが、例によって0時くらいにトイレで目が冷めました。2日目に備えて夜間撮影はしないつもりでしたが、あまりの星空に目を奪われ30分間くらい撮影をしました。
機材はいつものOM-D EM1mark2+M.ZUIKO 12−100mm f4.0PROとleofotoのミニ三脚です。
夏山は日中ダメでもたいてい夜中は晴れ渡るので、このときばかりは夜中トイレに起きる体質で良かったと思います。f2.8の広角レンズを持ってきておけば、といつも思う反面f4.0のマイクロフォーサーズでも結構良く撮れちゃうんだなと思います。
条件はf4.0, ISO1600, SS20~25秒です。個人的にはノートPCのデスクトップに使うくらいまでなら全然許容範囲の画質です。
day2、北鎌尾根編に続く!